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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 12
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もと変わってない。私が寝かされた……だけ? なんで!?)
 「本当にどうしたの? 嫌な夢でも見た?」
 「ハウィス」
 とんとんとん、と軽い音で下りてきたハウィスは「ミートリッテの言動」に違和感を覚えている。いつもと違うのはミートリッテだと、傾いた群青色の目が語る。
 「……ごめん……。なんでもない」
 「……そう?」
 「着替えてくるね。あ、朝食は? まだなら作るよ?」
 「先に作っておいたわ。早く支度して下りてきてね。昨日は忙しくて……もう、すっごくお腹空いてるのよぉー」
 「わぁあ! 待っててくれたの!? ごめーんっ! あとちょっと待っててーっ」
 再び二階へダダダーッと駆け上がり、部屋の中に素早く逃げ込む。
 乱暴に閉めた扉へ背中を押し付け……ズルズルと滑り落ちた。
 (……なによ、これ……。なんなのよこれはぁ……!)
 家の中に人の気配は無かった。にも関わらず、扉と向き合っていたミートリッテは背後を取られ、無様にも気を失った。
 呼吸を塞いだ布に染み付いていた甘い匂いは、一夜明けてもまだ少し鼻の奥に残ってる。この匂いを知覚した途端に襲ってきた強烈な眠気。
 薬草の類いか? それもかなり強い効果……薬草学について詳しくは知らないが、これほどの即効性だと、毒草に近い気がする。そのくせ頭痛だの目眩だのの後遺症が無いのは、故意か偶然か。
 (家を荒らすのでもなく、ハウィスに手を出すのでもなく、私を眠らせる為だけに侵入してたっていうの? 何故? 何の目的で!?)
 ミートリッテを抱えた腕の強さや体の大きさからして、相手が男なのは間違いない。
 シャムロックには独学とはいえ護身術めいた心得だってあるのに、初手であっさり封じられてしまった。武術だか体術だかに通じる「本物」である事も間違いない。
 でも、その先が読めない。
 何故? 何の為に?
 意図が、全然、読めない。
 「……もう……止めてよぉ……っ!」
 寒気が止まらない。心臓が凍りそうだ。
 なのに、耳の奥では全力疾走直後に似た血流音がドクドクドクドクと喧しい。
 (ハウィスが危ないの。誰だか知らないけど、余計な事しないで。お願いだからハウィスを護らせて。これ以上、邪魔しないで…!)
 嫌な想像図が脳裏を掠める。
 動かない、土気色の冷たい体。母だと思ってしがみ付いていたその人の顔は、家族の温もりをくれた綺麗な恩人で……
 「嫌だ!! ハウィス……ハウィスッ!」
 咄嗟にぶんぶんと首を振り、膝を抱えて唇を噛み締めた。口の中に鉄の臭いがする。
 ガタガタと震える右腕を見れば、左手の爪先が食い込む袖に、鮮やかな赤色が少しだけ滲んでいた。
 (あと……三日……。今日を除けば、二日しかない)
 今日から三日間は果樹園休業。アーレストに許可を貰ったから、
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