第5話、金と銀の亡命者
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「いえ、ミッターマイヤー提督にも後ほど伺う予定です」
「なるほど。ホーランド提督の噂はこちらに来てから何度か聞いたことがあります。失礼ながら仕え易い上官とは言えないようですな」
ロイエンタールは淡々とした口調で芳しくないホーランド評について言及した。それでもラデツキーにはオブラートに包んだ物言いに聞こえ、ロイエンタールに対する好感さえ持たせた。
「ここだけの話。かなり気分屋なことは確かです。しかしながらわがままで残忍な門閥貴族に仕えることに比べれば、児戯のようなものでしょう。ホーランド提督は老女に襲いかかることも無ければ、告発者を暗殺させることもありません。せいぜい暴言を吐いたり、左遷したり、軍から追い出したりするだけです」
「閣下のお話を聞いた小官は安堵すべきですかな? いずれにせよ同盟に残忍でわがままな門閥貴族がいないと改めて心に刻みましょう」
特徴的な目に皮肉をたたえ、ロイエンタールは礼儀正しく頷いた。ラデツキーは顔を恥ずかしさで若干赤らめる。嘘は言ってないにせよ、ホーランドと門閥貴族を比較して勧誘する我が身が情けない。
「ところで第十一艦隊ということは、小官は大佐待遇と聞いていますから、参謀になれということですか?」
「いえ。ロイエンタール提督とミッターマイヤー提督が、私とホーランド提督の部下になることを承諾してくだされば、お二人を准将として実戦部隊の指揮官に迎え入れたいと思っています」
「ほう。小官はもう生涯艦隊を指揮することはないと思っていました。そういうことでしたら、閣下の申し出を喜んで受けましょう」
ラデツキーは簡単に承諾されたことに少しばかり驚きながら手を差し出した。 ロイエンタールと握手をする。 思えばロイエンタールの対応は終始礼儀正しく好感の持てるものであった。彼のプレイボーイ具合を警戒していたラデツキーが、娘は駄目でも、妻ならば紹介してやろうという気分になるほどだった。
「ありがとう。ロイエンタール提督。ところでミッターマイヤー提督に私の申し出を伝えるにあたり、何か助言はありますかな」
「正面から真摯に対応すれば問題ないでしょう。彼は根っからの軍人であり天性の指揮官です。そのことが彼を落ち着くべき所に導くでしょう」
どうやら本命の亡命者の勧誘は最初から余計なことを考えず、一本釣りをすれば十分だったのかもしれない。いや、亡命者本人と奥方の承諾を得るまでは油断禁物だ。
ロイエンタールに後日人事部から出頭要請が来ると告げ、ラデツキーは女主人に挨拶してから豪邸を後にした。
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