江戸妖怪気質
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「化けるのならまだあるぞ」
「まだあるのか」
「うむ、これじゃ」
今度は流行りに関する本であった。服や下駄は今何が流行っているか。当時の繁栄する江戸はそうしたものにも関心が深く当然それに関する本もあったのである。
そこには入れ歯や入れ眼、入れ鼻、白髪染め、付け毛、毛生え薬と実に色々とあった。もうそこまでいくと元の姿形がわからない程であった。中には化け物より化け物らしい外見の者まで書かれていた。特に女の化粧は中にはとんでもないものもあった。犬が飛び掛かりそうな派手な服装の男もいた。
「何とまあ」
これには流石に化け物達も唖然としてしまった。
「わし等より凄いわ」
「驚いたか」
楚満人は彼等に問うた。
「ううむ、これではわし等に勝ち目はない」
「人間の方が恐ろしいではないか。困ったものじゃ」
「ところがそうではない」
「!?」
化け物達は彼の言葉に話を止めた。
「というと」
「虚を衝くことじゃ」
「虚を」
「左様。今江戸の者はお主等より凄くなっておるな」
「うむ」
「じゃがそれは気が締まっておる時のこと。油断している時、そして明かるい場所から暗くなった場所に潜んで狙えば」
「楽に驚かせるというわけか」
「どうじゃ。それはお主等の得意技じゃろう」
「確かにな。ではやってみるとするか」
「やってみよ。それで驚かせることができればお主等の勝ちじゃ。わしも商売になる」
「よし」
「ではやってみせよう」
こうして化け物達は人の虚を衝き、そして暗い場所で驚かせるようになった。これは成功し化け物達は江戸に自分達の場所を見つけることができた。ここから日本の妖怪はその動きがかなり変わった。
そしてここで利を得た者が。
「これはよいことじゃ」
楚満人であった。彼は化け物が人を驚かせた話を書き、それは大いに売れた。それだけでなく化け物から謝礼を貰いそれでまた金を得ていた。最早彼は大金持ちであった。
結局彼は人と化け物を利用して左団扇となったのである。頭が回ると言えば彼にとって都合がいいか。
化け物をも利用して利を得た楚満人、彼こそ本物の妖怪と言うべきか。だが彼はそんなことは気にも留めず死ぬまで飄々と化け物を書いて楽しく過ごしていたそうである。案外こうしたところが化け物に合っているのかも知れない。
江戸妖怪気質 完
2006・1・8
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