江戸妖怪気質
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してきた。いつも持っている豆腐も一緒である。
「まあやれ」
「すまんのう」
こうして楚満人と化け物達は飲みながら話をすることとなった。彼等が言うにはその灯りが嫌らしい。
「あれのせいでのう」
子泣き爺が呟いた。
「どこもかしこも明るくてのう。わし等のいる場所がないのじゃ」
「化け物は暗い場所か人のおらん場所にいると決まっておるからな」
楚満人は酒をちびりとやりながら述べた。意外と美味い酒であった。
「しかしそれではお主達は困るじゃろうな」
「そう、そこじゃ」
河童が出て来た。
「それでお主に頼みたいことがある。とびきり怖いわし等の話を書いてくれ」
「お主等のか」
「そうじゃ。お主なら書ける。それを頼みにここに来たのじゃ」
「今こうして実物がおるから書けるな。どうじゃ」
「わしもおるぞ」
恐ろしさでは知らぬ者のない牛鬼までいた。
「さあ書いてくれ。早う」
「頼む」
「そう言われてもな」
だが楚満人は快い顔をしなかった。
「筆が進まぬのか」
「ならば特別な筆を持って来てやるぞ」
「そういう問題ではないのじゃ」
だが彼はそれも断った。
「書こうと思えば書ける」
「では何故」
「最近実はわしももっと怖いものを見てしまってな。それで化け物を書くのは止まっておるのじゃ」
「もっと怖いもの」
「うむ」
彼は頷いた。
「まあこれを見てくれ」
そう言いながら彼は足下にある数冊の書を化け物達に見せた。そして説明をはじめたのである。
「まずこれじゃ」
化け物達の目の前にその中の一冊を広げながら言う。見れば遊郭を書いたものであった。絵までついている。
そこには布団の中で遊女を待つ男が描かれていた。その首は女を待って異常なまでに伸びていた。
「御前さんと同じじゃな」
楚満人はここでろくろ首を指差した。
「あたしかい」
「そうさ。同じじゃな」
「確かに」
ろくろ首はそれに頷いた。彼の話はまだ続く。
「これもな」
今度は遊女であった。どれだけあるかわからない数の手で客から金を巻き上げていた。
「手の多いのはおらぬな」
「代わりに目が多いのならいるわよ」
百々鬼であった。美しい女であるがその手に無数の目がある妖怪である。
「私は元々遊女だし。似てるわね」
「そうじゃろう。もっと凄いのもおるぞ」
「まだいるの」
「これじゃ」
今度はさらにとんでもないものであった。三人も子供がいる年増の女が化粧で初々しい芸姑に化けているのである。狐や狸も真っ青であった。
「これはまた凄いのう」
実際に狐や狸も唸っていた。
「よくもこれだけ化けられるものじゃ」
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