第百六話
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浮遊城《アインクラッド》。勝手知ったるそこを全力疾走していき、人の波をかいくぐって目的の待ち合わせ場所に着く。息を整えながら周りを見渡していくと、待ち合わせをしていた彼女のトレードマークたる、ピンク色の髪が小さく揺れていたのを見つける。
「リズ!」
息を切らせて彼女の名を呼ぶと、ゆっくりとリズはこちらを振り向いた。すっかり彼女の代名詞とも言えるようになった、改造したエプロンドレス姿をしたリズに苦笑いをしながら手を振ると、彼女も似たような動作をしながら近寄ってきた。
「やっぱりショウキの方が遅いんだから」
「リズが早いんだよ」
現実と仮想の両方の世界の時刻を調べてみるが、そのどちらもが待ち合わせの時間よりも遙か前。メニューを可視化させるまでもなく、リズにはそれはもちろん分かっているはずだが、その問いに彼女が答えることはなく。
「細かいことはいーの!」
その身全体を俺の身体に預けるように、リズがこちらの腕を抱き留める。柔らかい感触がコートを通して伝わってくるとともに、リズの頭が肩の上にコテンと乗せられる。
「ああ。今日はデートだもんな」
「そういうこと」
寄り添ったリズのほどよい重さを感じながら、俺は人混みではぐれないように、しっかりとリズの手を握る。お互いの指と指がまるで違う生物のように絡まり合い、リズの温度をいつも以上に感じさせてくれた……ひんやりとしていて、走ってきた身としては多分に心地よい。
「リズの手、冷たいな」
「あんたの手は……やっぱり、あったかい」
お互いの体温を感じあいながら、どちらからともなく笑いあう。そろそろ出発しようか――というアイコンタクトを、ともすれば唇と唇が触れてしまいそうな距離で行うと、二人は待ち合わせ場所から歩みを進めた。
『……無理……』
――かに見えたが、俺たちの足は同時に止まり。お互いがお互いの赤面した顔を見ないように、反対方向を見ながら残った片手で顔を覆っていた。……それでも握った手を離すことはなかったが、こうなってしまったことには原因があった筈だ。
「どうして……こうなったの……」
奇しくも、先のセブンにユウキへと水泳を教えた時の俺のように、リズが原因を究明しようとする独り言を吐いた。もしくは原因はハッキリとしているが、それを認めたくはない現実逃避の台詞だったか。
時間は少し前に遡るが。俺たちはいつものようにリズベット武具店で働いており、会話を交えながら武器の手入れをしたり、訪れた客に自慢の商品を売りつけたり、偶然訪れたシリカにセブンのライブのチケットを見せびらかしたり。こんな――こんな羞恥プレイをしていた訳では、なかった……
もっと深く思いだそうと、さらに集中して現実逃避――もとい思い
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