1部分:第一章
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怒っていたのが一転して静かになってきた。完全に呆れたのだろうか。
「あんたのことは」
「御免なさい」
「私に謝る必要はないのよ」
これは僕も同感だった。聞いていて思った。今自分のことに気付いたが紅茶を飲む手が止まっていた。話を盗み聞きするのに夢中になってしまっていた。
「ただ。彼は傷つけないでね」
「わかったわ」
これで話は終わりかと思ったら。何か違った。今度は急に明るい調子で話を変えてきた。この店のクレープに関する話になったのだった。
「それでここのクレープだけれどね」
「ええ」
浮気で怒った後だとは思えない位に話が弾んでいる。思わず同じ人間同士が話をしているのかと見てみたくなったがそれは止めた。止めてじっと聞き続けることにした。
「どう思うかしら」
「いい感じね。甘くて」
それを聞いていて僕もクレープを食べたくなった。正直に言って。
「しかも上品でね」
「クレープだけじゃないわね」
(何と)
今の言葉を聞いて心が動いた。クレープだけじゃないとすると。
「生クリームもいいし」
「果物もいいの使ってるわよね」
さらに心が動いた。聞いているだけで誘惑の蜘蛛の糸に誘われるようだった。
「チョコレートもいいし」
「そうそう」
「そうか」
僕は今度は実際に声を出してしまった。ここまで聞いてはいてもたってもいられなくなった。食欲は他のどんな欲望よりも強い。
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