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どっちが誰だか
3部分:第三章
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ということはかなりの実力があることがわかる。そしてその実力に見合うだけのものを持っているということも。
「だったら上の方よ」
「そうなるの」
「ええ、このホテルは高い部屋は上にあるわよね」
「ええ」
 朋子の次の指摘はここだった。
「だったら間違いないわ。藤井さんは上の部屋にいるわ」
「上ね」
「それも最上階よ」
 確信の言葉になっていた。
「スイートかロイヤルスイートね」
「ロイヤルスイート」
 晶子はその言葉を聞いただけで身体に緊張を覚えた。
「またそれは豪勢ね」
「行く?」
 真剣な顔でその晶子に問うてきた朋子だった。
「その最上階に」
「何をしに?」
「サインよ」
 朋子の求めているものはまさにこれだった。
「サイン。藤井さんのね」
「藤井さんのサインを」
「ティーシャツと色紙、持ってるわよね」
「ええ、まあ」
 実はサインをしてもらえる機会があればと思い持って来ているのだ。これは朋子だけではなく晶子も同じである。二人共実に用意がいい。
「持ってるけれど」
「じゃあそれ取りに行ってすぐに最上階に行きましょう」
「ホテルの人に何か言われない?」
「そんなのは見つからないようにすればいいのよ」
 完全にそんなことはどうでもいいといった感じの朋子だった。
「それはね」
「随分と強気ね」
「女は度胸」
 はっきりと言い切ってみせた。
「そういうことよ。わかったわね」
「そうね。虎穴に入らずんば虎子を得ずっていうしね」
「龍の穴に入らないと龍の子はいないわよ」
 朋子の言葉は実に名古屋人らしいものであった。ちなみに二人共好きな番号は一であったり二十であったりする。どちらも名古屋人が伝統的に愛する番号だ。大阪人が十や十一、二十八、四十四を愛するのと同じ理由である。好きな数字はやはりそこに信仰めいたものがあるのである。
「だからよ。行くわよ」
「わかったわ。それじゃあ」
「若し見つかっても誤魔化せばいいから」
「本当に強気なのね、朋子って」
「伊達に名古屋女やってないわよ」
 とは言っても方言は消している。あえてである。
「わかったら行くわよ」
「ええ」
 朋子に引き摺られるようにして行く晶子だった。ところが色紙とティーシャツを装備して部屋を出ると今度は。晶子の方が率先して動くのであった。
「最上階まではね」
「どうするの?」
「階段で行くわよ」
 よりによってこう言うのだ。
「階段でなの?」
「エレベーターはホテルの人やお客さんがよく使うじゃない」
「ええ、確かに」
 朋子は晶子の言葉に頷いた。明るい光に照らされた赤絨毯の上で彼女の言葉を聞いている。

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