第六章
[8]前話
「大名になれるというのに」
「さすれば官位も役職も違う」
「一介の浪人とは訳が違うぞ」
「それを断わるとは」
こうそれぞれ驚いていた、しかし。
断られた秀吉は口を大きく開いて笑ってだ、明るく言った。
「ははは、見せてもらったわ」
「それがしの傾奇をですか」
「よく見せてもらった」
実にというのだった。
「やはり御主は天下の傾奇者じゃ」
「喜んで頂けましたか」
「実にな、ではこれからも好きなだけ傾くがいい」
「是非そうさせてもらいます」
「わしが許す」
天下人である彼がというのだ。
「そしてこの天下を好きなだけ暴れるのじゃ」
「それでは」
慶次は秀吉に笑顔で応えた、そしてだった。
彼はこの日より天下の傾奇者としてさらに傾いた、その彼の話を聞いてだ。
秀吉は話を聞く度に笑った、そのうえでこうしたことを言った。
「わしが間違っておった、ああした者は召し抱えるべきではない」
「好きにさせてですな」
「そうじゃ、傾かせてやるべきなのじゃ」
こう利家にも言うのだった。
「又左殿がそうである様にな」
「それがしもですか」
「好きでわしの傍におろう」
「如何にも」
「それはやはりな」
「傾いていると」
「又左殿も慶次も傾いておるわ」
二人共、というのだ。
「その傾きをこれからも見せてもらう」
「では」
「その様にな、さて又左殿と慶次がこれからもどう傾くのか」
大坂城において笑って話した。
「楽しく見せてもらいながら天下を治めよう」
「では殿下」
すかさずだ、三成が言って来た。
「あの件ですが」
「うむ、それはな」
傾きとは無縁の生真面目な石田にも笑みで応える、秀吉は二人の傾奇者を見つつ楽しみながら政もっ見るのだった。
秀吉と二人の前田 完
2016・1・18
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