第五章
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「わしが許さぬ、治部殿は安心せよ」
「左様ですか」
「うむ、そうじゃ」
慶次を見据えつつ言うのだった、そして。
秀吉がだ、また三成に言った。
「だからよいと言っておろう」
「左様ですか」
「うむ、では慶次よ」
再び慶次に対して言った。
「その身なりわしによく見せてみよ」
「はい」
慶次は秀吉に応えてだ、そのうえで。
ゆっくりとだ、後ろ姿まで見せた。それが終わってから秀吉の前にまた控えて言った。
「この通りです」
「ふむ、面白いのう」
「それがしの今の服は」
「実によい」
秀吉は笑ってだ、慶次に答えた。
「わしも欲しい位じゃ、そうした服もあるのじゃな」
「少し手入れをさせたもので」
「そうじゃな、それでじゃが」
あらためて言った秀吉だった。
「御主今は誰にも仕えておらぬな」
「はい」
「ではどうじゃ」
慶次のその目を見てだった、秀吉は彼に微笑んで問うた。
「わしに仕えぬか、万石出すぞ」
「大名ですか」
「そうじゃ、大名としてわしに仕えぬか」
こう問うのだった。
「これよりな」
「大名ですか」
「一万石でな」
それだけ出して大名とするというのだ、破格なのは言うまでもない。秀吉は諸大名を前にして慶次を誘いにかかったのだ。
大名達は秀吉のその言葉を聞いてだ、また言った。
「一万石か」
「五千石程かと思ったが」
「それだけ前田慶次殿を買っている」
「そうなのか」
「あの御仁は確かに強い」
「武辺者よ」
自分では不便者と言っている、戦の場でしか役に立たない普段は何もしないから不便者だというのである。
「しかしそうした者は旗本じゃな」
「一万石は普通は出さぬ」
「しかしここで出されるか」
「流石太閤様、太っ腹じゃな」
「そうでもあるな」
こう話していた、彼等は。
そして秀吉もだ、慶次に問うた。
「どうじゃ」
「一万石ですか」
「大名としてわしに仕えぬか」
慶次のその顔を見つつ問うた言葉だ。
「そうせぬか」
「一万石、多いですな」
その石高からだ、慶次は答えた。
「確かに」
「そうじゃ、しかも大名じゃから」
秀吉はその地位も話に出した。
「官位も役職も違うぞ」
「しかしですか」
「しかし。何じゃ」
「いや、太閤様の下におりますと」
それならばというのだ。
「その軍勢は多くしかも真っ先に出陣したり殿軍とはなりませぬな」
「だから」
「それがしはそうした場でこそです」
「思いきり戦いたいか」
「はい、ですから」
「よいか」
「折角の申し出ですが」
笑って答えた慶次だった。
「このお話は」
「断るのじゃな」
「左様です」
「何と」
慶次が秀吉の申し出を断ったことについてだ、大名達は。
こ
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