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秀吉と二人の前田
第三章
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「思う存分」
「やはりな、しかしな」
「叔父上もですか」
「傾くぞ」
 慶次を見据えての言葉だった。
「よいな」
「太閤様の御前で」
「わしのことは知っておろう」
「尾張きっての傾奇者」
「そうじゃ、傾くことにかけてはな」
 それこそと言う年上だった。
「御主に負けておらぬわ」
「だからですな」
「御主が太閤様に無礼を働けばな」
 その時はというのだ。
「容赦はせぬぞ」
「ははは、では久し振りにやりますか」
「喧嘩か」
「いたしますか」
「御主が無礼を働けばな」
 また言った利家だった。
「そうするぞ」
「叔父上も相変わらずで」
「その時は風呂の借りも返させてもらう」
「あの風呂は如何でしたか」
「凍えたわ」
 利家は慶次に一言で答えた。
「あの様な風呂ははじめてじゃった」
「ではそれがしも水風呂に」
「水は水でか」
「返して頂けますか」
「それは楽しみにしておれ」
「左様でござるか」
「どっちにしても返す、ではこれよりな」
 あらためてだ、利家は慶次に言った。
「太閤様の下に参れ」
「はい、太閤様にですな」
「御主の傾きを見せてみよ」
「さすれば」
 慶次郎は久し振りに会った利家と向かい合って話をしてだった、そのうえで。
 実際に秀吉の前に案内された、そこには主な大名達も居並んでいたが。
 秀吉のすぐ左下の座に控える利家を見てだ、彼等はひそひそと話した。
「今日の又左殿は違うな」
「そうですな」
「服がです」
「礼装でありますが」
 それでもだった、彼の今の服は。
 これ以上はないまでに派手な色と柄だった、それはまるで。
「傾奇者」
「そのものではござらぬか」
「お若い頃は確かに傾いておられたが」
「今もとは」
 彼の若い頃からのことを言うのだった。
「そうだったのですな」
「前田殿は今も傾奇者」
「そしてですな」
「あの様な身なりになられた」
「いや、これはです」 
 その利家を見つつ口々に言うのだった。
「天下一」
「そう言っていいかも知れませぬな」
「大名でありながらも傾く心は忘れていない」
「ここぞという時に傾く」
「それこそ天下一の傾奇者ですな」
 大名達はその利家を見て言う、だが生真面目なことで知られている石田三成は眉を顰めさせて利家に言った。
「前田殿、そのお姿は」
「ならぬか」
「太閤殿下の御前ですぞ」 
 だからこそというのだ。
「それでその派手なお姿は」
「ははは、よい」 
 利家を咎める三成にだ、その秀吉が笑って言った。
「それはな」
「しかしです」
「よい、今日はな」
 やはり笑って言う秀吉だった。
「それでもな」
「殿下がそこまで言われるなら」
「うむ、では又左殿」
「はい」
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