暁 〜小説投稿サイト〜
私物化
第三章

[8]前話 [2]次話
「命に別状はないわ」
「そうか、ならだ」
「手術の後でっていうのね」
「退院してだ」
 そのうえでというのだ。
「すぐに復帰だ」
「もう止めて、また倒れるわよ」
「俺の会社だ、俺がいないとな」
「あなただけの会社じゃないわよ」
 ここでだ、郁恵は強い声で夫に告げた。
「もうね」
「どういうことだ」
「沢山の社員の人に株主の人達、契約先の人達がいるのよ」
「その皆のものか」
「そしてお仕事の結果会社が生み出したものを受ける人達のだ」
「俺が創業した会社でもか」
「もうあなただけのものじゃないのよ」
 妻はこう言うのだった。
「私物じゃないのよ」
「公になっているか」
「そうなっているのよ、もう」
「だからか」
「もう無茶はしないで」
 強い声でだ、妻は言った。
「後は利光さんと小松さんがいて」
「愛衣もいてか」
「皆がいるから」
 だからだというのだ。
「任せてね、社員の人達も頑張っているから」
「俺がいなくてもか」
「皆やっていくわ、むしろあなただけがやっていたら」
 これまでの様にというのだ。
「色々とよくないことになるから」
「だからか」
「もうあなたは全部しないで」
「隠居しろか」
「そこまでは言わないけれど」
 それでもというのだ。
「無理をしないで」
「そうか」
「さもないと誰にとってもよくないことになるわ」
 勿論森田自身にとってもだ、郁恵は言葉の中にこの言葉も入れてわした。
「わかったわね」
「そういうことか」
「ええ、もういいから」
 妻は夫にこれまで言うことのなかった強い言葉で告げた、そして。
 その話の後でだった、森田は。
 癌の手術に他の悪い部分の治療も受けて退院してだ、会社に復帰して。
 最初の役員会議でだ、こう言ったのだった。
「俺は社長と代表取締役を辞めて株もかなり手放す」
「えっ、その様にですか」
「されるというのですか」
「ああ、会長職はそのままだが」
 それでもと言うのだった。
「会社の権限は新社長の森田常務に任せる」
「私にですか」
「そうだ」
 利光にも言うのだった。
「いいな」
「わかりました」
「専務は小松君だ、他にはだ」
 新役員の人事も言って言った、そして。
 彼はだ、最後にこう言った。
「後は任せた、会社を頼む」
「社長、まさか」
「もうこれで」
「そうだ、俺は隠居する」
 会長職はそのままでもというのだ。
「経営の表舞台から退く、相談役ということだ」
「ですが社長は」
「これまでずっと」
「わかったんだ、この会社は俺が創ったが」 
 そして彼一代で大きくしたがというのだ。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ