第一章
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私物化
森田成一はまさに一代で森田物産を立ち上げて日本でも有名な企業にした。
当然ながらその森田物産の会長である、そして社長も筆頭株主も代表取締役も全て兼ねている。
まさに森田物産の絶対の独裁者だ、それでだ。
その彼に逆らえる者は社内でもいない、それは娘である愛衣も同じでだ。
細い目で少し頬がふっくらとしている和風の優しい顔立ちでだ、夫つまり森田にとっては娘婿である利光によく漏らしていた。
「私の言うこともね」
「お義母さんの言うことも」
「聞かないのよ」
「そうだよね」
「もう完全なワンマンよ」
その経営はというのだ。
「何もかもがね」
「そうだよね」
利光は深刻な顔で妻に答えた。二人は見合いではなくだ、利光は社内で成績がいいということで愛衣に結婚を命じたのだ。
そうした強引な結婚だったが夫婦仲はよくだ、こうして今も話をしているのだ。
利光は背が高く立派な顔をしている、映画俳優の様な。如何にも出来る顔だ。
その彼もだ、こうぼやいた。
「健康のこともね」
「ええ、お医者さんのお話もね」
「聞かないね」
「何でも自分でやって来た人だから」
「それで会社を大きくしてきた人だから」
「十八で高校を卒業して」
愛衣はその父のことを話した。
「それからがむしゃらに働いて閃いて運もよくて」
「今に至った人だから」
「余計になのよ」
「何でも一人でするんだね」
「そうよ、けれど」
愛衣は難しい顔のまま夫に話した。
「もう会社も大きくなって」
「お義父さん一人だけだとね」
「決められない状況で負担も大きいわ」
経営者一人ではというのだ。
「それに株もね」
「もっと株主の人に配分しないと」
「駄目なのよ、けれどね」
「誰の言葉もね」
「聞いてくれないから」
「困るね」
「もうお父さん一人の会社じゃないの」
強い声でだ、愛衣は言った。
「お父さんだけの会社じゃないの」
「その通りだね、お義父さん一人の会社じゃないから」
「どうしたらいいかしら」
「そのどうしたらいいかもね」
「わからないから」
「困るね」
「本当にね」
二人共正直に言って頭を抱えていた、会社は変わろうとしている時期であることをわかっているからこそだ。
だが森田は相変わらずワンマンでだ、人の話を一切聞かず経営を続けていた。朝早くから真夜中まで働いて。
疲れもものとしない、妻の郁恵が幾ら休んではと言ってもだ。
「経営をする人間が働かないでどうする」
「けれどあなたもう六十よ」
「年齢の問題じゃない」
厳しい顔でだ、彼は愛衣がそのまま歳を重ねた顔の妻に返した。
「俺は社長だぞ、森田物産の」
「そしてあなたが立ち上げて大きくしたっていう
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