第六章
[8]前話
「空には」
「あの赤い星と青い星がですか」
「やがて天下を争いましょう、そして」
老人はさらに言った。
「秦は水徳ですな」
「五行でいいますと」
「次は木徳になり」
「そして火徳ですな」
「色では黒から青、赤になります」
「では次の天下は」
「はい、木を経てです」
老人は青い星も見つつ張良に話した。
「火になります」
「そうなりますか」
「そしてその火の星の傍に」
白い星があった、老人はその白い星も指し示したのだった。
「あの星がありますが」
「まさか」
「そうです、貴殿の星ですぞ」
その白い星こそがというのだ。
「貴殿はあの赤い星を助け天下を統一させるのです」
「それが私の宿命ですか」
「それがわかりました」
老人にもというのだ。
「貴殿がこの子の時に来られたことで」
「だから六韜をですか」
「お授けします、その書をよく読まれ」
そのうえでというのだ。
「天下を一つにすることに役立てて下さい」
「わかりました」
強い声でだ、張良は老人に左手を拳にして右手の平に包み込む礼をして言った。
「それでは」
「ではこれで」
老人もまた張良に頭を下げてだ、そしてだった。
その場を後にした、その彼を見送ってだった。
張良は力士にだ、こう言ったのだった。
「あのご老人は全てわかっていたのかもな」
「子房様のことを」
「そうかも知れない」
こう言うのだった。
「だからこそだ」
「子房様を試されていたのですか」
「そして私がその者とわかってな」
「六韜を授けられましたか」
「六韜は太公望が書いたと言われている」
「ではあのご老人は」
「そこまではわからない、だが」
それでもとだ、張良は確かな声で言った。
「私はこの書を読みだ」
「そのうえで、ですか」
「学んだ力を天下の為に役立てよう」
「そうされますか」
「これからな」
こう言ってだ、張良は力士を促して彼と共に家に帰ってだった。それから六韜を読みそうしてそこから得た智を使い漢の高祖劉邦の統一に軍師として貢献した。そのはじまりはこの老人の出会いにあったとされている。
張良は老人の靴を拾って履かせ三度目にして一日のはじまりは何時かを知った、それが彼が稀代の軍師になるはじまりとなった。この老人が誰かは今もわかっていない。しかし張良がどういった者かは既にわかっていたのかも知れない。そうしたことを考えていくとこれまた実に面白いことではなかろうか。そうも思いつつここで筆を置くことにする。
三度目で 完
2015・12・15
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