第三章
[8]前話
道鏡は午後は帝の菩提を普段以上に長く弔ってだ、夕食の後で。
入浴をして寝た、その朝に。
弟や弟子達は眠ったままの道鏡を見てだ、しみじみとして語り合った。
「実によいお顔ですな」
「はい、まさに」
「これ以上はないまでにです」
「よいお顔です」
「何の未練も執着もない」
「澄み切ったお顔ですな」
「このお顔を」
彼の弟が言った。
「忘れずにです」
「はい、我等は」
「弔いそして」
「覚えておきましょうぞ」
弟子達も応えた、そしてだった。
寺に残った者達で道教を弔った、その後でだった。
彼の弟は弟子達にだ、しみじみとして言った。
「実際の兄上のことは」
「世はですな」
「これからも悪く言いますな」
「何かと」
「そうでしょう、しかし我等は知っていて」
そしてというのだ。
「何よりも御仏がです」
「ご存知ですね」
「誰よりも」
「ですから」
だからというのだった。
「いいでしょう」
「我々は何も言わなくとも」
「お師匠様のことは」
「はい、全ては」
こう言ってだ、彼等は道鏡を静かに弔った。
俗に妖僧だの怪人だの言われている、弓削道鏡の評判は至って悪い。帝位を望んだということもまことしやかに言われている。
しかしまことに帝位を望んでいたり孝謙女帝と巷で言われる様なことがあれば失脚の際それを口実に処刑されていたかよくて僧籍を剥奪されていたのではないかとも言われている。道鏡に権力への野心もあったことは事実だろう、しかし彼の本質は学究の徒であり非常に見事な学識を持っていたこともまた事実だったらしい。そして最後まで女帝の菩提を弔ったという、このことを思いながらこの作品を書いた次第である。真実のことは最早知る由もないが。
最後の弔い 完
2016・1・25
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