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俺の四畳半が最近安らげない件
四畳半の殺人
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ルの写真もくまなく探したし、当時の仲間に何気なく電話をして、探りを入れたりもした。しかし何処にも氷室の存在はない。あえて確認はしていないが、この分では登山計画書も同じことだろう。一緒に山を降りた4人のことも、記憶に齟齬がないか、必死に考えた。恐らく俺以外の皆も、同じ作業をしていることだろう。だが、どの記憶も同じくらいに鮮明で、同じくらいにリアルだった。…では氷室が6人めだったのか。いや、違う。自信を持って言える。何故なら。


氷室が、死んでいるからだ。


 結論から言えば、やはりあの山小屋で殺人は行われたのだろう。生き残った俺たちの中の、誰か一人によって。そして恐らくそいつが未知の6人めなのだ。


 だが俺たちは追及することではなく、受け入れる事を選んだ。


 ヒマラヤ辺りの海抜8000mを超えた辺りを俗に「デスゾーン」などという。そこで命を落とした遺体は、回収されることなく腐敗して土に還ることすら出来ず、半永久的に放置され続ける。回収、したくても出来ないのだ。そして、それらの最高峰にアタックする登山家達は、散在するそれらの遺体を『道標』として重宝しているらしい。
 ヒマラヤなんかに登ろうとする奴らはどっかおかしいんだろうな、と俺は漠然と思っていた。


 ……それは真ではなかった。山に登ろうって連中は、みなどこか狂っているのだ。


6人めが何のために俺たちに紛れ込んだのか、氷室に取って変わったのか。結局、分からず仕舞いだ。だが知る必要はない。そもそも、知るべきではない。強いて言えば、それが俺たちが挑んだ山の『意志』だったのだ。例え手足をもがれても、命を取られても、俺たちは山の意志にだけは逆らえない。


そして、俺たちはこの殺人の共犯者だ。


人は、2度死ぬ。1度めは肉体の死。そして2度めは人々の記憶からの死。『彼』を易々と受け入れたことで、氷室が生きてきた軌跡そのものが、ごっそりと削られた。その父母でさえ、氷室を覚えていまい。これは俺たちがせーので氷室を忘却の川に放り込んだも同然だ。完膚なきまでの、存在そのものの死だ。


俺たちの中にのみ、僅かに在る残滓も、いずれ消える。



四畳半の殺人は、完全犯罪として葬り去られる。


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