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ミラエ=アル=リフ
第四章

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「本当にな」
「だから目だけじゃ」
「わしにはわかる、あの人は美人だ」
 あくまでこう言うのだった。
「確実にな、そしてな」
「立場のある人ですね」
「そうした人の縁者だろうな」
「奥さんか娘さんの」
「そのことは間違いないな」
 それは確実だというのだ。
「あのヴェールの色からな」
「黒だからですね」
「それは間違いない、ただな」
「ただ?」
「こうして謎だ謎だって思って話すのもな」
「それも楽しい」
「ああ、そうだよな」 
 こうも言ったのだった。
「違うか?」
「言われてみればそうですね」
「謎の美人な」
 笑ってだ、また言ったバルダートだった。
「本当に面白いな」
「何処の誰かですね」
「気になるな」
「そのことは確かですね」
 ジャーファルも頷く、そうしたことを話しながらだった。
 二人は商売をしていた、客が来るとものを売っていない時はよくこうした話をした。ヴェールの美女は時折二人の前を通った。 
 だがふとだ、バルダートはある日ジャーファルにこんなことを言った。昼の一時の客がいない時に昼飯を食いながらだ。
「なあ、あの美人な」
「ヴェールのですね」
「スパイとかか」
「スパイですか」
「顔を隠してるしな」
「それならわかりにくい」
 それでというのだ。
「だからな」
「あの人はスパイですか」
「何処かの国かテロリストのな」
「それだと洒落になってないですね」
「ああ、警察に通報するか」
「軍の方がいいんじゃ」
 ジャーファルはこうバルダートに言った。
「スパイとかテロリストだと」
「そっちか」
「どっちにしても通報しますか」
「そうするか」
「はい、それじゃあ」
「違ったらいいけれどな」
「本当にそうだったら」
 それこそというのだ。
「大変ですしね」
「ああ、最近物騒だしな」
「テロリストだと」
「ピラミッドとかスフィンクスとか爆破しかねないな」
「そんなことされたら」
「俺達が食えなくなるぞ」
「観光客相手の商売してますからね」
 ジャーファルはこのことを言った。
「実際に」
「エジプト自体がそうだろ」
「はい、観光で潤ってる国ですから」
 外貨を稼いでいるのだ、かなり真剣に。
「ですから」
「それでピラミッドとか爆破されたらな」
「僕達も商売が出来なくなりますし」
「エジプト自体もな」
「大変なことになりますね」
「ああ、だからな」
「あの人を通報しますか」
 ジャーファルは真剣な顔でバルダートに尋ねた。
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