巻ノ三十九 天下人の耳その八
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「この道は実に楽に進めます」
「そうですな」
「まことに」
兼続は笑みを浮かべて幸村に話した。見れば彼の赤い馬の後ろには十勇士達が徒歩で歩きつつ従っている。
「しかも今は晴れているので」
「余計にですな」
「気分がいいものです」
「このまま都まで行けば」
「その時は」
まさにと話すのだった。
「都も見ましょうぞ」
「ですな、いや都はです」
その都のことをだ、幸村は言った。
「素晴らしき場所です」
「ですな、それがしも思いまする」
「その様に」
「はい」
まさにという返事だった。
「実は都に入ることは楽しみです」
「左様ですか」
「そのことは、そしてです」
「大坂にもですな」
「あの町も今では」
「数年前よりもですな」
「栄えておりまする」
幸村が来た時よりもというのだ。
「源四郎殿も御覧になって頂ければです」
「その大坂の栄えぶりをですな」
「そう思っています」
「そうですか」
「はい」
こう言うのだった。
「それがしも」
「左様ですか」
「そして関白様ですが」
秀吉のこともだ、兼続は話した。
「やはり一代であそこまでなられただけはあり」
「それだけに」
「見事な方です」
「それがしもそう思っていましたが」
「会われたことはですな」
「ありませぬ」
それはまだだというのだ、実際に。
「まだ」
「ではです」
「関白様にお会い出来れば」
「その時はです」
是非、という言葉だった。
「多くのものを見られて下さい」
「関白様から」
「是非共」
「ですか、では楽しみにしております」
「はい、ただ」
「関白様はですか」
「このことは大きな声では言えませぬが」
こう前置きをしてからだ、兼続は幸村に秀吉のこのことを話した。
「あの方は天下無双の人たらしにしてです」
「そしてですな」
「優れた人物を見ますと」
「家臣にしたくなる」
「そうした方なので」
「それがしもですか」
「拙者もまた、です」
幸村だけでなく自分もとだ、兼続は答えた。
「実は以前からお声がかかっています」
「上杉家から出てですか」
「そして羽柴家に仕えぬかと」
「そう言われているのですか」
「そうです」
まさにというのだ。
「官位も用意し、そして」
「禄もですか」
「三十万石です」
それだけの禄をというのだ。
「出すと言われています」
「三十万石ですか」
「そうです」
まさにというのだ。
「そこまでのものを出されると言われています」
「それはまた」
三十万石と聞いてだ、幸村だけでなく十勇士達もだ。
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