閑話―呂布―
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南皮で暮らし始めた頃から、星は恋を目指して鍛練してきた。
幾度と無く辛酸を舐め、その度に立ち上がり更なる鍛練に取り組む。感じるのは確かな成果、武が研ぎ澄まされていく感覚。
遥か遠く、霞んで見えた恋の背中はすぐそこに――……
しかし、先程の攻防で認識を改める。自分が追い縋った背は以前のもの、今の恋は更に進んだ先に居る。
星はそのことに幸福を感じた、何故なら恋の武力に比例して自身の伸び代を感じるから。
思えば詰みの三連も、恋という強敵がいたからこそ完成した。
彼女と出会う事無く生きていたらどうか――……そこそこの相手に勝利し満足していただろう。
良くて神速止まり、その先は無い。
「……」
柄の末端を握っていた手を中央に持っていく、いつもの星の構えだ。
もう小細工は必要ない、正面から己の全てをぶつける以外に勝機は無いだろう。
これまでの全て、『一点を突く正確さ』だ。神速はその過程で得た副産物にすぎない。
今の星は文字通り、針の穴を突く正確さを持っていた。
「……」
星から笑顔が消え空気が変わる、彼女の狙いを悟った恋は冷や汗を浮かべた。
次の一撃、三連さえ捨てた最高の一突きで勝負にくる。防御を捨てたソレは相打ちを辞さない一撃になるはずだ。
まるで死合のような緊張感、沈黙を破ったのは恋だった。
「……フッ」
「!?」
二つの驚きが星を襲う。一つは恋の掛声、恋が矛を振るう時、彼女が声を上げた事など一度も無い。
二つ目は恋の放った間合い外の一撃、鉄球さえ両断する勢いの振り上げは、星はおろか槍にさえ触れる事無く大きく空振り、無防備な胴体を晒した。
無論、この致命的な隙を見逃すほど星は甘くない。全身全霊の一突きをその胴体めがけ――
「な!?」
放った突きは大きく右に反れ、空振りに終わる。何故、どうして、混乱する星を次の瞬間、目を開いていられないほどの風が襲った。
「――ッ」
ありえない、此処は室内だ。だが自分が感じたのは屋外のような突風。
換気用の小窓はあるが、今ほどの風が進入してくることは有り得ない。
突きを空振りしたことにより星に明確な隙ができ、彼女の首筋に恋の得物が宛てがえられ勝敗が決した。
「恋、まさかあの風圧は……」
「ん」
星の疑問は直ぐに晴れた。恋が最初に放った一撃、あれこそが風圧の正体。
一撃に賭けると看破した恋は、突きの軌道を反らすべく全力の振り上げ、掛声を用いた一撃で風圧を引き起こしたのだ。
「真持って、出鱈目であるな」
星は半ば呆れた様子で溜息を洩らす。
得物を振るえば風圧は起きる、正しあくまで頬を撫でる程度の柔らか
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