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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十二話 ベーネミュンデ事件(その2)
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ューゼル提督の下には、これは来ていませんか?」
「いや、まだ来ていない」
憮然とした表情でヴァレンシュタインの問いにミューゼル提督は答える。面白くないようだ。
「そうですか……。いずれ同じ物が来ると思いますが、この件で動く事は止めてください」

「何を言う、そのような事は出来ない。そうだろう、キルヒアイス」
「はい」
二人とも憤然とした表情で抗議する。
「この件は国務尚書より小官に調べよと命が出ています。もしかすると協力をお願いする事になるかもしれませんがそれまでは静観して欲しいのです」
「だめだ、そんな事は出来ない。姉上に万一の事があったら」
冷静さを失っているな、良くない兆候だ。落ち着いた中将と興奮した提督、周りもどう思うか……。

「提督、ヴァレンシュタイン中将の言うとおりにしましょう。提督が今なすべき事は艦隊の錬度を上げることです」
伯爵夫人が大切なのはわかるが、公私は区別しなければ、……。
「ケスラー……」
「過去に侯爵夫人に何度も命を狙われた閣下としては、納得がいきませんか?」
「!」
ヴァレンシュタインの発言に周囲が驚いて彼を見た。
「何故それを知っている」
そう、何故知っている? その件を知るのは当事者と我等皇帝の闇の左手のみのはずだ。しかし、ヴァレンシュタインは微笑むだけで答えない。

「グレーザーという宮廷医をご存知ですか」
「?」
いきなりヴァレンシュタインが話題を変えた。
「……確かその医師は時々ベーネミュンデ侯爵夫人の館を訪れていませんか。そんな話を或る女から聞いた覚えがありますが」
或る女か……、ロイエンタール少将が自信なさげに答える。

「ロイエンタール少将の言うとおりです。この書簡ですが、おそらく書いたのはグレーザー医師でしょう。彼は侯爵夫人と手を切りたがっている。これ以上の繋がりは身の破滅だと考えているのでしょう。そこから調べはつきます。あとは国務尚書に任せればいい。いかがです?」
「……」
結局ヴァレンシュタイン中将に全て委ねるということで話しはついた。


「何故ヴァレンシュタインは私があの女に命を狙われた事を知っているのだ?」
たしかに、何故知っているのだろう。
「……以前、妙な噂を聞いた覚えがあります」
ロイエンタール少将が困惑した表情で話し始めた。
「なんだ、それは」

「中将は、皇帝の闇の左手だと……。あれは多分サイオキシン麻薬事件の頃だと思いますが」
……それは私が流した噂だ。どの女から聞いた話だ、卿の情報源は女だろう、ロイエンタール少将。

「ミュッケンベルガー元帥の密命ではなかったのか?」
「小官も元帥閣下の密命と聞いた覚えがありますが」
「ええ、しかしそういう噂が流れたのも事実です」
ミューゼル提督、ミュラー、ロイエン
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