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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 11
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「すみません。こんな状況になるとは思ってなくて」

(嘘つけーっ! わざとでしょ! 絶対わざとでしょおおお!)

 ハウィスに謝罪するアーレストの背中へ飛び蹴りを噛ましたくなるのは、ごく自然な感情の流れだと思いたい。

「仕方ないわ。こうなってしまったら、私にはどうにもできない。彼女達に説明しても受け付けてくれないもの。ミートリッテ自身でなんとかしてね」
「自力でなんとかできるなら、こんな事態にはなってないよぉ……」
「まあまあ。いきなり入信、即刻修行とは言いません。社会勉強のつもりでまずは歴史や背景を軽くなぞっていただいて、どうしてもダメだと思ったらそれ以上の無理強いはしませんから」

 その軽いなぞり期間が、極めて大迷惑なのだが。
 大体、無理強いはしないってのも嘘だよね。
 諦めるつもり、全然ないよね。

 一発殴りたい。

「今日はもう真っ暗です。自警団の方々のお仕事もありますから、このまま出歩かないほうが良いでしょう。明日、教会でお待ちしていますね」
「決定なの!? ねぇ、決定なの!? 私の意思は尊重してくれないの!?」
「良いじゃない。元々、教会で使われてる物に興味があったんでしょう? 何に興味があるのかは知らないけど、ついでにじっくり観察してきたら?」

(うげ!? それは、そうだけど! それ、今ここで言わないでハウィス! 釣り人にエサを渡さないでーっ!!)

「おや、そうですか。構いませんよ。どこをどんな風に見ていただいても。ゆっくりご案内します。ゆぅーっくりと、ね」

 釣り針にエサ、装着。

「ああ……、私のほうから勧誘しているのですから、もちろん、関係者しか入れない場所にも出入り自由ですけど……」

 どうします? と、投げ入れられた、極上の撒き餌。
 ミートリッテの奥歯が ギシ と鳴った。

「…………っ」

 神父公認で指輪に堂々と接触できる、千載一遇(せんざいいちぐう)の機会。
 たとえ、今以上の厄介が待ち受ける罠だと解っていても。
 たとえ、曲がりなりにも聖職に就いている者が類い稀なる冷酷な悪人面で笑っているのが、心底腹立たしいとしても。
 これを逃すのは愚かだ。

(ハウィスの安全第一……ハウィスの安全第一……っ!)

 内部抗争への参加には猶予(ゆうよ)がある。
 でも、海賊の依頼の期日は待ってくれない。

「……よろしく、お願いします……っ」

 抵抗感から精一杯絞り出した掠れ声に。

「こちらこそ」

 アーレストは、聖者の微笑みを湛えながら応じた。




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