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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 11
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解決させなければ、二進も三進もできないのだ。時間的にはとっくに着いていてもおかしくない。
 酒場で働くハウィスなら男のあしらい方にも精通しているだろう。
 しかし、今回の相手は人の話を全ッ然聴かない、強引を地で行くあの悪質(決め付け)な神父・アーレストだ。二人を一対一で会わせるには不安が大きい。
 よもやハウィスにまで勧誘の牙を向けていたら……絶対赦さん! 万死に値するッ!
 なんて、まるで娘さんを嫁に下さいと挨拶に来た男を威嚇する父親の気分で、夕暮れの坂道を駆け下りる。



 (……っ!?)
 住宅区に入った瞬間、壮絶な悪寒が背筋を駆け上がった。
 足裏が地面に貼り付いたように動かなくなる。
 (なに、これ……。なんで)
 誰かに見られている。
 それも、全身を舐め回すいやらしい視線。頭の天辺から足の爪先までじっとりと絡み付く……蛇みたいだ。
 「だ、れ?」
 なんとか動かせる上半身を捻って辺りを見渡すが、視線の主らしき姿は無い。というか、人影そのものが無い。
 「気持ち悪い……!」
 長年怪盗なんて続けていれば当然、各所で様々な感情に遭遇する。
 一般民には不審がられたり感謝されたり。貴族には恐れられ怒りをぶつけられ……時には彼らを護る騎士やら傭兵やらに殺気を向けられたりもした。
 いずれもシャムロックの正体を知らないと解っていたから、別段気にしてはいなかったが。
 この視線には、そういった強い感情が無い。
 見定められている。ただ、見てるだけ。
 だが……意図が読めない分、恐い。気持ち悪い。嫌な汗が噴き出す。
 「……あ……」
 焦燥感に速まる鼓動を抑えようと右手を上げた途端、柔らかな風が耳を撫でた。昼間よりも少しだけ冷たい感触が、不思議と落ち着きを与えてくれる。
 (…………歌?)
 もう一度周囲を確認するが、やはり誰もいない。
 吹き抜けるのは、海からの風と波の音、僅かな物音だけ。
 どうしてそれらを歌だと思ったのか……ミートリッテは自分の思考に首を傾げ、いつの間にか視線を感じなくなっていた事に気付く。
 足は……動いた。汗も引いた。体全体に自由を取り戻してる。悪寒も無い。
 「……なんだったの?」
 冷静になってみれば、ほんの数秒の違和感。気の所為だったと思うには鮮明すぎる恐怖。海賊達と対面した時の比じゃなかった。
 けれど、何度確認したって周りには人間も動物もいない。隠れられる場所も特には無い。
 「用心だけはしとくか」
 いないものはいないのだ。幾らおかしいと思ったって、いないものには対処できない。
 なら、どうするべきか。今、優先すべきは何か。
 上げた右手で襟元を掴み……そのまま家へ直行する。



 「げ。」
 その光景は、予想できる範囲内の筈だった。

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