四十三話:挑発
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美人で可愛らしい奥さんに愛されているその旦那さんはさぞ幸せだろうなと思う。しかし、彼女はそれがとんでもない思い違いであることにすぐに気付くことになる。
「夫と言えば……迷惑をかけたな」
「え? 何がですか?」
「その―――頭の傷は痛まないか?」
時間が停止する。頭の傷とは自分がはやての父親と呼ばれた人物に殴られた傷に違いが無い。だが、そこから目の前の女性に結びつくことなどなかった。どう見ても無害そうな女性なのだ。しかし、自分を傷つけた相手を夫と呼んだ。つまりは敵だと意識した瞬間にアインスを睨み付ける。
「そう警戒しなくても大丈夫だ。私はお前に危害を加えない。そもそも今の私はお前よりも弱い」
「……説明してください。どういうことなのか」
「何をだ? 私に答えられることなら構わない」
いつでも動けるように体に力を入れながらもスバルは動くことができなかった。どういうわけか目の前の女性を傷つける気になれない。本当に相手にはこちらを害する気が無いのではと信じかけてしまう。何よりも今の話から考えればはやての父親の妻であるならば必然的にはやての母親となる。一体、どういうことなのか。
「教えてください。どうして家族同士で敵対しあうなんて悲しいことをしているのか」
「……いいだろう。そうだな……全ては私が主の下に来たことが始まりだな」
スバルの紳士な瞳を見て、アインスはゆっくりと語り始めるのだった。
遠くて近い、あの頃の思い出を。
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