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八神家の養父切嗣
四十三話:挑発
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会はわしの味方だろう!? 貴様のような薄汚い犯罪者などならばともかく、わしは地上部隊の中将だぞ!」
「薄汚い犯罪者なのは否定する部分が欠片もないが……あなたは一つ間違っている」

 レジアスの侮辱的な言葉にも特に何も思わず、むしろ当然だと受け入れながら切嗣は返す。その顔は相手を憐れむような表情でいてどこか道化を見るような笑いがあった。あまりにも場違いな表情にレジアスは思わず怒りを鎮め呆然とその顔を眺めてしまう。

 同時に頭の隅である恐ろしい考えが浮かぶ。自分はとんでもない勘違いを今までしていたのではないかと。同類だと思っていた人間はその実、人間と呼べるような存在ではなく、ただの化け物だったのではないかと。


「最高評議会が味方をするものは一つ―――“正義”だけだよ」


 それ以外の全ては正義の名の下に切り捨てる。彼らはそれ以外の機能を持ち合わせていない。公正さの怪物。人を見ることなどない、平等に人類にとって有益か否かで判断する。切り捨てる者の中に愛する者が居ようが自分が入っていようが関係はない。平穏(現状)を乱す者は容赦なく排除する。それが―――正義の味方(・・・・・)

「あなたは身近な人間を見ている。この世界を守ることを優先し、他の世界に目を向けなかった」
「何を……それが当たり前だろう。足元すら固められずに何を守れるというのだ!」
「ふ……だから理解できていないんだ。最高評議会は数字以外で人間を判断しない。どこまでも平等で残酷だ」

 レジアスと最高評議会はそもそもが相容れぬ存在だ。過激で冷酷な判断をすることは同じでも目標とするものが違い過ぎる。レジアスは愛するミッドチルダを守るために尽くし、最高評議会は名も知らない救う義務すらない大勢を守る。

 共に理想を求める手段は同じかもしれない。しかし、到達地点に抱くイメージが余りにも違い過ぎた。そこに気づくことが無かったが故にレジアスは良いように利用された。利用しているつもりが結局は操られていたのは自分だったという滑稽な道化(ピエロ)だ。

「そんなはずは……そんなはずはない! わしは―――」
「ゼスト・グランガイツ。あなたは親友が生きていたという理由だけであれだけの動揺を見せた」

 自分は最高評議会と同じで目的の為に大切な者を犠牲にできない程弱くない。そう言おうとしたが切嗣からゼストの名前を出されて押し黙る。共に夢を語り合った親友を失いたくなどなかった。自分に出来得る限りのことをして彼を危険から遠ざけようとした。

 しかし、彼は逆に不審に思い首を突っ込んでしまい帰らぬ者になったはずだった。あれからどれだけの罪の意識と自責の念に悩まされたかなど覚えていない。過去を変えられればと願ったこともないわけではない。それだけの想いがあった。


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