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六つの百合の華
見知らぬ少女
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うん!」
 私がそう言うと可憐は大きく返事をした。二人で階段を降り、2人で廊下を歩
 く。久しく一緒にいなかったからか、嬉しくも何だか不思議な時間だった。
 一階にある下駄箱に着くと、可憐は何やら意味ありげな事を言い出す。
「私の何かが変わってても私は私、美鈴の何かが変わってても美鈴は美鈴だから
 ね!」
 可憐の口からこれほどはっきりとした言葉が出ないのは私でも初めての経験だ
 った。
「う、うん…」
 私は反応に困りながらも返事をする。心なしか、可憐の顔は少し悲しげだった
 気がした。
 校門から歩道に出ると可憐は若干早歩きで進みだした。
 まるで私に見せたいものがあるかのように。
 早歩きの訳はあえて聞かず、可憐と歩幅を合わせる。
「ところでさ、学校どうだった?」
「どうだった……って?」
 質問を質問で返された。が、可憐は返事に困ってはいなさそうだったので会話
 を続ける。
「緊張……とかは無かったの?ほら、これから環境に慣れるのも大変だろう
 し……」
「………………ないよ」
「え?」
「美鈴と一緒だから、緊張なんてしないよ!学校の皆も優しいし!」
 可憐は笑顔でそう言った。
 夕焼けの光が可憐を後方から照らし、逆光で顔が見えにくい中でも感じ取れる
 ほどの笑顔で。
「…………ん、そっか」
 もう言い返すことは無かった。あったとしてもとっくに忘れていただろう。
 そんな可憐の笑顔に負けないぐらい、私も笑顔で返した。

 しかし歩く、どうやら可憐の家はかなり遠いらしい。
 私の家から学校は大体徒歩二十分程度。
 もう三十分は歩いている気がする、私の気のせいなのだろうか。
 可憐はまだ歩みを止めない。
 いつ止まるのか、凝視していると可憐は急に足を止め、右腕を上に上げる。
 右側には昔の可憐家と勝るとも劣らない豪邸があった。
「おぉー、可憐のお家はやっぱ大きいなー!私の家なんて今も――――」
 左だ。
 可憐の右手の人差し指は左を指している。
 その方向にはごく普通の一軒家が、いや、ほとんど同じデザインの一軒家が多
 く並んでいるので借家だろうか?
 可憐は肩の力が抜けたかのように右腕を下ろした。
 可憐は俯いて肩を震わせている、その身震いは寒気でも痙攣でも無い。
 ――泣いている。
「う……ひっく……右じゃなくて左のが今の私の家……びっくりしたでし
 ょ……」
「う、うん、びっくりしてないって言ったら嘘かな」
「お父さんの会社が潰れちゃってね、第一希望の高校には行けなくなっちゃっ
 て……どこに行こうか迷ってたら凛から県外の高校を薦められて……」
「あ、それが私の高校だったんだ……」
「うん、色々あってもう昔の私じゃないんだ……。わ、私の事嫌いになっち
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