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六つの百合の華
見知らぬ少女
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が入らない。
 ぼーっとしてると小学生の頃、可憐の家に寄ってた思い出が脳裏をよぎった。
 可憐の家は羨ましいほどお金持ちで、可憐のお父さんは企業の社長だった気が
 する。
 大きな犬を飼っていて、名前は「リリー」。毛並みが良く、小さい頃はよく可
 憐と抱きついて寝ていた記憶がある。
 お父さんも気品があり、紳士という言葉が良く似合う人だ。
 家は見上げないと全体図が分からないほどの豪邸で、よく分からない石像が庭
 の真ん中にあった。
 庭の広さだけで一軒家が二つ、三つ入るぐらいの大きさがあった。
 可憐家に寄って自宅に帰ると、自宅がおもちゃのように小さく思えた事は良く
 覚えている。
 とにかく目立つ家で、近所で知らない人はいなかったほど。
 ところどころの記憶は曖昧だが、印象強い物や思い出は鮮明に覚えていた。
 引越し後も豪邸なのだろうか、期待に胸が高鳴る。
 それから放課後までの時間は長く感じた。
 だが、終礼後、日直だった私は教室の掃除を先生に頼まれてしまい、なくなく
 終わらせる事にした。
 可憐は恐らく下駄箱か校門前だろう。もしくはトイレ。
 掃除道具が入ったロッカーに目をやるとそこには可憐の姿があった。
 子猫のような目をしてこちらを見ている、誰が見ても感じ取れるほど、何か言
 いたげだった。
「美鈴、手伝おうか?」
 意外にも出てきた言葉は非常に単純で、なにより思いやりがあった。
「気持ちだけもらっとく、下駄箱で待ってて!」
 可憐にそう言って、箒を手に取る。
 可憐が階段を降りていくのを確認した後、掃除に取り掛かった。
 箒でゴミを掃いた後、雑巾を取りに廊下に向かうとそこには可憐の姿があっ
 た。
「え?さっき下駄箱に行ったんじゃ……」
「いや、考えたんだけどさ……」
 可憐は照れ顔で雑巾を掴み、一瞬閉じかけた口をもう一度開いた。
「二人でした方が早いじゃん?それにやっぱり美鈴だけにやらせるのは自分が許
 せないっていうか……」
 友達同士なら当たり前の言葉。と考えるのが普通だが、可憐から出たその言葉
 には何か特別な余韻があった。
「うん……ありがと」
 私は思わず下を向いた。
 意識はしてない、無意識に、だ。
 せっかくの好意を無理に断るわけにもいかない。先生に指定された場所を同じ
 ように可憐に伝え、手伝ってもらうことにした。
 その後、可憐は嫌な顔一つせずに掃除を手伝ってくれた。
 それだけで嬉しい、竹馬の友と過ごす時間は嫌な事でも特別早く、掃除はあっ
 という間に終わった。
 雑巾を絞り、汚れた水の入ってるバケツを水洗いし、手をアルコール消毒す
 る。
 箒とちりとりをロッカーに戻し、バックを手にして教室を出た。
「それじゃ、行こ!」

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