3部分:第三章
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絵とは十歳程しか違わないのだ。かってはジュリアナで派手に遊んでいたから扇子も知っていた。
「とにかく入るわよ」
「はあい」
二人は何はともあれ店に入った。まずは店員が案内する。
「いらっしゃいませ」
タキシードの洒落た格好のボーイが出て来た。何となくキザというよりは軽薄な感じがする。これもイタリア故であろうか。少なくともフランスのそれの様に悪く言えばお高く止まった感じはしない。
「予約していた有坂ですが」
おばさんの姓である。これは御主人の姓であり、元の姓は宮崎という。
「有坂様ですね。こちらです」
「はい」
落ち着いた様子でボーイに案内される。当然ながら蒔絵も一緒に店の中を進んでいった。
店は白を基調として木が多く配されていた。あちこちの装飾がやはり鮮やかだ。
蒔絵はそんな店内を見回りながらボーイに案内されていく。そして店の一番奥にある個室に案内された。
「こちらの部屋でしたね」
「ええ」
おばさんはボーイの言葉に頷く。彼に先導されその部屋に入った。
部屋の中は店内とは違っていた。気品のある造りになっていて如何にもお見合いに使うといった感じであった。蒔絵はその中を見てすぐにそう感じた。
部屋の中央には白いテーブルかけがかけられた大きなテーブルがある。六人は座れそうだった。そこに座って話をするであろうことは明白であった。蒔絵はいよいよその戦いの時が迫っていることを感じていた。
「それでは後程」
「はい」
席を空けられそこに座る。おばさんと席を一つ開けて一方を占めて座る。彼女はそこでまだ来ない相手を待つことになったのであった。
「もうすぐよ」
おばさんは二人になると蒔絵にまずこう言った。
「あちらさんが来られるのは」
「そう」
「わかってると思うけどね」
おばさんは念を押してきた。
「ちゃんとしなさいよ」
「だからわかってるって」
蒔絵は相変わらずの笑みを返す。
「ここはね。決めるわよ」
「頼むわよ」
蒔絵にもこれからのことがかかっていた。やはりおばさんが考えている方向とは正反対であった。何はともあれ相手が来るのを待っていた。
「お連れの方が来られました」
暫くしてまたボーイさんがやって来た。そして二人にこう述べた。
「わかりました」
おばさんはそれを聞いて頷く。
「わざわざ有り難うございます」
「えい、それではこちらへ御案内致します」
「はい」
こうして見合い相手が部屋の中に案内された。やって来たのはおばさんと同じ様に着飾った年配の女の人と写真で見たあの若い人であった。
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