第二百五十三話 最後の合戦その十
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「ねねに子が生まれたそうじゃからな」
「だからですか」
「そのこともですか」
「祝おうぞ」
こう言うのだった、そのうえで。
羽柴もまた棟梁の首を目指していた、最後の戦いの詰めに。
長政もだ、隣の舟にいる家康に言った。
「徳川殿、ここは」
「浅井殿もですな」
「はい、棟梁の首を討ちます」
是非にという言葉だった。
「一人でも」
「それがしもです」
「では二人で」
「はい、力を合わせ」
そのうえでとだ、家康も言う。
「一人でもです」
「その者の前に行き」
「討ちましょうぞ」
「それがし願わくば」
長政は目を怒らせて言った。
「父上の仇を」
「では」
「杉谷善住坊かです」
「無明をですな」
どちらかの首をというのだ。
「討ちたいと思っています」
「左様ですか、では」
「それではですか」
「それがしは浅井殿のうちの片方をです」
杉谷、無明のいずれかをというのだ。
「討ちましょう」
「そうされますか」
「はい」
是非にという言葉だった。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「わかり申した」
長政は二つ返事で応えた。
「さすれば」
「その様にですな」
「しましょうぞ」
こう答えたのだった。
「これより」
「では」
「はい、ではそれがしは」
「どちらにされますか」
「杉谷めを」
彼をというのだ。
「討ちましょう」
「その者をですか」
「どうも父上をたぶらかしていたのは」
「主にですか」
「杉谷なので」
「では」
「それがしは杉谷を討ちます」
まさにこの者をというのだ。
「そうさせて頂きます」
「ではそれがしはです」
家康は長政のその言葉を受けて微笑んだうえで答えた。
「無明を」
「そうされますか」
「はい、それでは」
「これよりですな」
「参りましょう」
その魔界衆の者を討ちにだ、こう話してだった。
二人は共に船を進めた、そうして徐々にだった。
魔界衆は囲まれていてだ、その数の殆どを失っていった。しかしそれでも彼等は逃げようともせず戦い続けるのだった。
それは壇ノ浦でのことであった、しかし。
遠く安土にあってだ、帰蝶は昼の空を見てだ、共にいる市に告げた。
「何かです」
「ありましたか」
「空を御覧になって下さい」
共に見ようというのだ、その空を。
市は義姉のその言葉に従い空を見た、すると。
不意にだ、その顔を明るくさせて言ったのだった。
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