巻ノ三十九 天下人の耳その一
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巻ノ三十九 天下人の耳
信之と幸村がそれぞれ徳川家、上杉家の人質となりそのうえで文武を学んでいると聞いてだ、羽柴秀吉は大坂城において彼の弟である秀長に言った。
「二人共かなりの出来物であるな」
「そのことを兄上もですか」
「うむ、聞いた」
猿面を綻ばしての言葉だった。
「それで思うのじゃが」
「二人のうちどちらかを」
「ははは、わしがそこまで欲が浅いと思うか」
「では」
「両方どころかじゃ」
「真田家自体をですか」
「欲しくなったわ」
家の息子二人が共に出来物と聞いてだ。
「真田家自体がな」
「それでは」
「うむ、では真田昌幸をな」
主である彼をというのだ。
「重く用いてな」
「そのうえで」
「羽柴家に完全に入れたいのう」
「真田家の人とですな」
「そして上田の地を抑えてな」
「徳川、上杉をですな」
「共に牽制したい」
上田を治める真田家を完全に組み込んでというのだ。
「そう思うがな」
「そうですか、しかし」
「それでもか」
「真田家自体を組み込むにはです
秀長は兄に苦い顔で言った。
「少しです」
「遅かったか」
「はい、既に嫡男の源三郎殿には縁組の話が浮かんでいるとか」
「徳川家からじゃな」
秀吉はすぐに察して弟に言葉を返した。
「そうじゃな」
「はい、主である竹千代殿には娘御は今はどなたも嫁いでおられますが」
「それでもじゃな」
「四天王のお一人である本田平八郎忠勝殿の娘御が」
「源三郎にか」
「そうお考えとか」
「それはしまったな」
そう聞いてだ、秀吉はすぐに困った顔になった。
「わしとしたことが動きが遅れたわ」
「そうですな、この度は」
「両取りは出来ぬか」
「はい、しかしです」
「もう一人はじゃな」
「いけるかと」
「まだ上杉家から手は出ておらぬか」
幸村が今いるこの家のことをだ、秀吉は問うた。
「あの家からは」
「はい、あの家はそうしたことは不得手です」
「縁組は、じゃな」
「先の謙信公が奥方がおられず」
毘沙門天を信仰し生涯妻帯せず女人を一切近付けなかった、それで縁組のことを知る筈もないのだ。
「今もです」
「そうしたことには疎いな」
「左様です、ですから」
「まだ手が届いておらぬか」
「ですから次男の源四郎とです」
「真田家はじゃな」
「まだ取り込めますが」
「そうか、ではな」
「はい、次男の源四郎とですな」
「あの家と上田は取り込もう」
秀吉は秀長に確かな顔になり言った。
「今から手を伸ばしてな」
「それではどうされますか」
「そうじゃな、丁度桂松の娘がいい歳になろうとしておる」
大谷吉継の、というのだ。
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