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第一章
見習い悪魔
「チブスよ」
「はい」
真っ黒い身体に蝙蝠の翼、先が三角になった尻尾に頭には二本の角、そして左手には大きなフォークがある。見るからにそれであった。
「御前の最初の仕事だ」
「有り難き幸せ」
こう己の前にいる何か得体の知れない全身が燃え盛った存在に対して片膝をついた姿勢で応えた。
「魔神アミィー様」
「うむ。それではまずは人の世界に行くのだ」
「そしてそれを誘惑し」
「魂を一つ手に入れてくるのだ」
これがそのチブスへの命令だった。
「よいな。それではだ」
「はい、只今からすぐに向かいます」
「誰でもよい」
魔神はそれにはこだわなかった。
「要するに天界の連中を困らせてやれ」
「魂を手に入れなくてもですか」
「無論それが最高だ」
それは変わらないのだと言いはする。その全身が燃え盛った魔神はだ。おかげで今魔神は燃え盛る炎にしか見えない。身体があるかどうかさえわからない。
「しかしだ。御前ははじめての仕事だ」
「だからですか」
「そうだ。今はそれでもよい」
「天使を困らせることを」
「あの連中は自分達に絶対の正義があると思っている」
このことを実に忌々しげに言うのであった。
「それが気に食わぬ。傲慢だ」
「傲慢ですか」
「傲慢なのはあの者達こそがだ」
魔神の言うことは一理あるようではある。
「だからだ。困らせてやれ」
「はい、それでは」
「手段は問わぬ。我等は我等のやり方があり正義がある」
魔物はそうだというのだ。
「あとは巨人も許すな」
「巨人も?」
「それもわかる」
これについては今は言わずさらに言う魔神だった。
「それを奴等に見せてやるのだ」
「わかりました」
こうしてであった。チブスは人間の世界に降り立った。降り立ったのは日本という国であった。その大阪という街にやって来たのである。
大阪を見て最初の感想は。露骨に嫌な顔をして出て来た。
「汚い街だなあ」
思わずこう言ってしまった。
「何だよ、あちこちゴミだらけだし言葉は汚いし」
そうしたものを見ながらの言葉である。
「黒と黄色の模様ばかりだし。河豚や蟹や他の気色悪いおっさんの看板があるし」
そうしたものを上から見ているのだ。
「おかしな街に来たな。人間の世界ってこんな街ばかりかな」
彼が思っている街とは違っていた。少なくともだった。
そしてだ。真っ黒いやけに汚い川に架かっている橋のところでだ。縦縞の帽子を被った小さな女の子が母親と見られる女性に手を引かれながら文句を言っていた。その文句はというと。
「何で阪神弱いん?」
「あれでもかなりましになってんで」
ジーンズに茶色のショートヘアの母親が彼女
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