第一話 小さな町の売れない技師
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
少年は悩んでいた。
どうすれば今の状況を打破できるかと。
場所はナムルという名の大陸の東端にある、カンタールという名の小さな町の片隅にある小屋の中。
少年から言わせれば『店舗』という事だが、物置と見間違う程の外観に粗末な看板があるだけの建造物を店舗と口にできる人間は稀だろう。
小屋の中にいる人間は2名。
片方は10代半ば程に見える少年で、ぎこちない笑みを浮かべながら必死に何かを説明している所だった。額には汗。その表情と相まって口から出している説明がよもや苦しくなっている事は本人も自覚しているだろう。
だからこそ少年は悩んでいた。
どうすれば自分の作った魔道具を、目の前の男に売りつける事が出来るかと。
少年と対峙するように座っているのは無骨な戦士風の男だった。
少年とは一つの机を挟むように座り腕を組んだその姿は、線の細い少年にとって恐怖心を沸き立たせるには十分な存在感であったが、一週間ぶりに“迷い込んだ”客をみすみす逃すわけにもいかない。
「……と、先程から説明している通りですね、この道具は非常に強力な浄化機能を有していまして、そのままでは口にできないような液体でも飲料水に変えることが出来るのです」
黒髪短髪の少年は、自分の倍はあろうかという体格を持つ戦士風の男に対して必死に身振り手振りで説明する。
「……なるほど。つまり、こいつがあれば泥の沼地の水や、樹液、草の絞り汁なども飲料水として使用できるようになるというわけだな?」
腕を組みながら目を細め、戦士風の男は地鳴りのような低い声で質問しつつ、少年の言う浄化装置に目を落とす。
机の上に置かれているのは奇妙な形をした道具だった。
形は一言で言えば皿を頭の上に乗せた象の彫像とでも言うべきだろうか。
掌ほどの大きさの金属製の皿が有り、ずんぐりとした球体に近い円柱がそれを支えている。
その円柱からニョロリと細い管のようなものが二本突き出しており、1方が蛇口、1方がバルブとの説明を受けたが、その蛇口がまるで象の鼻のような形だった為、前述のような感想に至ったわけだ。
やや納得したかのような戦士の言葉だったが、その道具を売り込むべき少年の額に浮かんでいた汗が垂れる。
生まれついての細目からその瞳の色を伺う事は出来なかったが、恐らくその視線は明後日の方角を向いていたに違いない。
「……出来ません……」
「……んん?」
少年の呟きに戦士は眉を顰めて唸る。
その態度に少年は背中に冷たい物を感じたが、根が正直な事もあり声を震わせながらも事実を述べる。
「……いや、泥水とか樹液とかはちょっと……。この道具、非常に強力な浄化作用を持っている性質上、非常にデリケートな作りでして。あの、その、非常
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ