小さな猫と僕の墓と
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このシェルターに辿り着けたのは、僕と猫だけ。家族や友達がどうなったのか、僕にはもう分からない。分からないことだらけで嫌になる。最初のうちは、必死になって外部と連絡を取ろうとした。別のシェルターとの通信システムはあった。たまに、生きている人と通信が繋がることがあった。ただ。
大抵のシェルターは、複数の人間を収容していた。
シェルターには当然、備蓄の食料がある。それは大抵、2〜3年もつかどうかの量だ。そして突然の最終兵器攻撃で、心の準備が出来ていなかったみんなは、シェルターの定員など気にしている余裕はなく、大抵のシェルターは定員の倍以上を収容していた。
―――収容、してしまった。
最初はお互い生き残ったことを喜び合う通信ばかりだった。その後は…思い出したくない。一つ確かなのは、通信できたシェルターに、現在生き残りは一人もいないということだ。僕も最初は、呑気にカーペットで丸くなっている猫を、非常食とみなしていた。
でも僕の声に反応するようになり、丸い黒目でじっと見つめて遊んで遊んでと訴えられるようになって、そんなこと絶対無理な弱い僕を知った。この子が苦しむのは無理だ。食べ物がなくなって、温かい場所を失って。
そして僕は知っていた。このシェルターには、肉体を捨てる設備があることを。
このシェルターは、比較的後期に作られたものだ。最終兵器が使われ、数十年、数百年地上に出られなくなった場合を想定している。備蓄が尽きたとき、ここに収容された人は決断しなければならない。肉体を鋼鉄に変えて、平たく言えばロボットに変えて存在し続けるか、安らかに死ぬか。
僕は決断した。ただ、備蓄が尽きるよりずっと前に。
急に僕の姿が変わるとびっくりするかも知れないから、皮を剥いで防腐処理を施し、外皮に使った。柔らかさを維持するために、液体の緩衝材を外皮と機体の間に満たし、36℃の温度を保ったまま循環させる設定にした。この設定の為に、いくつかの便利機能を削除したから、機械の体になったところで、やっぱり僕は長生きしないかもしれない。僕の肉体は、小分けにして冷凍保存することにした。まだ子猫だから、大事に育てたら、備蓄以上に長生きするかも知れない。そのためには肉が必要だ、と思った。…骨は粉にした。
―――あ、ミルク終わったみたい。
猫はゴロゴロ喉を鳴らして、今度は撫でてくれとせがむ。きじとらの背中をゆっくり撫でる。猫はまた、うとうとし始めた。よく眠るよなぁ。僕は全然眠れないのに。…眠れ、僕の分まで。
僕には、小さな夢がある。
猫がいつか永遠に眠ったとき。あの鉛のドアを開けて、この四畳半のシェルターを飛び出し、地上に出るんだ。ライブカメラで時折眺めていた、大きな花が咲き乱
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