第1章転節 落暉のアントラクト 2023/11
貴方へ贈る物語:仄暗い情念
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
元よりNPCさえ姿を現すことさえ稀なこの主街区は、攻略と同時にプレイヤーに見放され、最前線からも置いて行かれた伽藍堂だ。
誰からも見向きもされず、必要とされない。ただの一人にさえ顧みられることのない。
私の拙い感性でさえ、ここは《終わってしまった》のだと思い知らされる。
――――この街はまるで、私のようだ。
自虐的な思考。幾度となく脳内から湧き起こり、脳裏を駆け巡った劣等感の証左。
――――苦しい。
壊れてしまいそうな自身への惨めさと情けなさは、かつて私が護るべきだった妻の変容によって日増しに膨れ上がっていった。
既に私の許容量を超えた思いは、項垂れた視線の先に透明な雫となって木張りの床に吸い込まれる。忸怩たる思いを振り払おうにも、剣を取ることさえ出来ない私には叶わない。それほどにこの世界は無力な者に対して無慈悲で理不尽だ。
已むに已まれず、酔いもしない酒に縋っては、ギルドのメンバーが圏外へ出向いた頃合いを見て酒場まで通う。なんと空しく、醜い行為か。
どこで道を誤り、こんな結果に甘んじてしまったのか。過去に答えを求めては虚しさに苦しみ、惰弱に溺れる。しかし、誰がこんな私を責められようか。
――――私には、それしか許されないのだから。
「それは違いますよぉ? 貴方はぁ、な〜んにも悪いことしてないじゃないですかぁ」
「………ッ!?」
不意を突かれ、耳朶を撫でた声に心臓が跳ね上がる。高く、甘い声。女性のものとみて相違ないだろう。
間延びした緩やかな口調にはある種の可愛らしさがあるものの、気配のない場所から突如として発せられただけに、実感した違和感は筆舌に尽くし難い。
視認した容姿さえ貌を覆い隠すほどにフードを目深に被り、厚手のローブは体型さえ測ることを許さない。先の気配のなさ――――こんな寂れた主街区でさえ行使されていた、その卓越した隠蔽スキル――――も相俟って、恐らくは女性であろうプレイヤーからは、言い知れない気味の悪さを醸し出していた。
しかし、そんな彼女に対しての警戒心さえ天秤に掛けられるほどに、彼女の第一声は私を強く惹き付けた。得体の知れない不気味で抗えない魅力を、私は彼女に見出していた。
「………どういう、意味かね?」
口から零れた言葉に、僅かに覗く小さな口の端が吊り上がった。
彼女はきっと美人なのだろう。折角の容姿を隠す事情云々はさておき、隠れた美貌の主は、少なくとも私を突き離すような意思はないように思える。それだけで、言い知れない安堵が拡がった。先程までの心中の疼痛が、不自然に和らぐような気さえしてしまう。
今度は私の問いかけに応じるように、フードの奥
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ