第1章転節 落暉のアントラクト 2023/11
貴方へ贈る物語:仄暗い情念
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ける、というのか?」
「ですです〜。むしろその為にお声かけしたんですからぁ」
彼女には感謝している。
私の目を覚ましてくれた。私を導いてくれた。これほどに清澄な心情は後にも先にもないだろう。私自身はそれだけで満足だ。しかし、もしも彼女が手を貸してくれるというのならばという一縷の望みも捨てられなかった。
「………それは、私が妻を殺したいと願っても、君は意見を変えないかい?」
明らかに狂った質問であっただろう。如何にゲームであれ、SAO内では殺人は成立する。命を奪えてしまうのだ。倫理の外にあるような言葉を耳にした彼女はしばしこちらに視線を向け続けた。
しかし、フードの奥から漏れたのは訝しむでもなく、怯えるでもなく、不可解なほどに楽しげで無邪気な笑い声。身体を曲げ、肩を震わせて笑う様に唖然としつつも、彼女はすぐに持ち直す。
「いやぁ〜、まさか貴方自身からそんな申し出を頂けるなんてぇ、夢にも思いませんでしたよぉ〜。お手伝い、させていただきますねぇ〜」
一頻り笑った後、二つ返事で了承を得るに至る。
「作戦なんかは手取り足取り教えちゃいますよぉ〜。ですからぁ、奥さんについて教えてくれると嬉しいですぅ」
彼女の要求に訝しむ余地はなかった。
私は妻に対しての仔細を全て話した。出会い、結婚までの道のり、夫婦生活でのお互いの在り方、殊にSAOでの出来事は精緻を極めたことだろう。何しろ彼女は私の理解者で協力者なのだから。
「ふむふむ、いやぁ〜、これだけ情報があれば名作が出来ちゃいますよぉ〜」
「………で、どうなんだ?」
「むむむぅ、せっかちさんですねぇ〜。ではではぁ、これをお渡ししますねぇ」
メニューウインドウを操作し、オブジェクト化されたのは転移結晶をスケールアップしたような直方体。最前線でさえおいそれとは出回らないという結晶アイテム《回廊結晶》だった。
「さっきのお話のぉ、すごーい指輪の売却はぁ、奥さんが直接向かわれるんでしたよねぇ?」
「その通りだ。明日、最前線の層に向かうらしい」
「ではですねぇ〜、貴方は奥さんに圏外村へ一泊してもらうようにお話して頂いていいですかぁ? それとぉ、ギルドの誰でも良いのでぇ、この回廊結晶とメモをアイテムポーチに入れちゃってくださいな〜」
「………それだけで良いのか?」
「えぇ、そこから先はお任せくださぁい。あとはお楽しみですねぇ〜」
作戦、殺害計画というものだから気構えてはいたのだが、どうにも単調な指示で肩透かしを受ける。
しかし、私の関与が少なくて済むのは彼女なりの配慮だろうか。痕跡を少なく済ませれば、疑いの目を向けられるリスクを減らせるというもの。第三者の手に因るものならば、私
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