第二十七話 デートじゃないのにその八
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「こんにちは」
「ああ、千里ちゃん」
にこやかな笑顔を私に向けてくれます。
「来てくれたんだね」
「大丈夫ですか?」
「ええ。大分よくなったよ」
前からうちの教会に来てくれているお婆さんです。いつも御主人と御二人で来てくれますけれど身上で今入院しているのはさっき阿波野君に話した通りです。優しくてとても明るくて物凄くいい人です。
「おかげさまでね」
「お父さんやお母さんも来てくれてるんですよね」
「そうだよ」
そのにこにことした顔で答えてくれます。
「おさづけまでしてもらってね」
「そうですか。よかった」
「有り難いことだよ。ところでね」
「はい?」
「そっちの男の子は?」
果物を持っている阿波野君に気が付かれました。
「見たことない子だけれど。天高生かい?」
「ええ、そうなんですよ」
私が答えるよりも前に阿波野君が言いました。
「実は中村先輩と同じ奥華の所属でして」
「あらあら」
「阿波野新一っていいます」
本当に私より先に話を進めます。
「宜しく御願いします」
「いやあ、これは男前の子を呼んでくれて」
「男前!?」
「あっ、僕のことですね」
「うん、そうよ」
お婆さんはこう阿波野君に言います。にこりとした顔で。
「千里ちゃんも遂にいい子見つけたのね」
「いい子?」
「いやあ、それ程でも」
阿波野君が変に調子に乗っています。いつも通り。
「ありますよ」
「面白い子ね」
「面白いですか?」
私には全然そうは思えません。っていうかまた調子に乗って。
「あんまり酷いんで頭にきてるんですけれど」
「どうして頭にくるのよ。いい子じゃない」
「すぐに調子に乗るしいい加減なんで困ってるんです」
「男の子はそれでいいのよ」
どうして皆この子には優しいんでしょう。思えばそれが不思議でなりません。
「多少手がかかる方がね。いいのよ」
「いい加減がいいんですか」
「そこを何とかするのが女の子の務めよ」
実際に天理教は女の人のやることはかなり多いですけれど。
「だから千里ちゃんもね。頑張りなさいよ」
「頑張る必要があるんですか」
これまた私にとってはわからない話でした。
「私が」
「これはっていう相手を見つけたら特攻するのよ」
「特攻?」
「そう、体当たりよ。いいかしら千里ちゃん」
「はい」
このお婆さんの御主人は元特攻隊の生き残りだったそうです。何でもあと一週間後に鹿屋っていう場所から出撃しようっていう時に戦争が終わっちゃったそうです。予科練っていう凄いところにいて若い頃はかなりの美男子だったそうです。予科練が何かは知りませんけれど。
「特攻は男の子がするものじゃないのよ」
「はあ」
「女の子がするものよ」
にこにことした顔ですけれど言
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