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歌集「春雪花」
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 八重桜

  見上げ思いし

   君の声の

 絶えて久しき

    春の日溜まり



 桜は散ったが…まだ八重桜はこれからと言わんばかりに咲き誇っている…。

 風に撓むその枝を眺めていると、急に彼の声が聞こえたような気がした…。

 気がしただけなのだ…彼はここにはいない。

 彼が去って一年以上…この春の日溜まりに、彼の影はない…。

 彼の声が聞きたい…聞きたくて堪らない…。



 手を伸ばす

  月より近し

    雲なれど

 届くことなき

    君ぞ遠けり



 真夜中…月明かりが眩しい夜…。

 そろそろ満月になろうかと思う月に、淡い雲が掛かっている…。

 月よりも近しく、何だか手を伸ばせば届くような気がして手を上げた刹那、考えずとも…届くはずもないことに苦笑した…。

 それはまるで…彼へと手を伸ばしているようであり、遠い彼へと手が届かないことと同じではないかとさえ思えた…。

 自分のしたことの愚かさに、溜め息を一つ…吐いた…。





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