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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
外伝 憂鬱センチメンタル
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落される事を想像したことはあるが、「灰色の世界」は想像を絶するほどに酷であった。自分のミスや未熟さが招いた事態ならそうはならないだろう。だが、「灰色の世界」は恐ろしい事に、それを起こした本人は何ら罪深いことをしていないのだ。
 自分の好奇心に押し潰されて動けなくなる……そんな言葉さえ生易しいほどに、その世界は絶対的に残酷だ。

 ヴェルトールはその域をなんとか脱したと聞いているが、本当に彼は大丈夫なのだろうか。心配になったアスフィは、時折ヘルメスをホームのデスクに縛り付けて様子を見に行くようになっていた。

「え、ちょ、アスフィ!?いくら俺が仕事をさぼり気味だからってこれはちょっとやりすぎなんじゃ……ふっ!くっ!ぜ、全然解けない……しょ、食事とトイレはどうすれば……!?」
「我慢してください。では、行ってきます」
「アスフィィィィィーーーーッ!!俺が悪かった!!全部俺が悪かったから、これからはサボらずやるから!!お願いカムバックしてぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜ッ!!」

 別に積年の恨みを込めて絶対にほどけない結び方をした訳じゃないし、普段のサボリで他人にどれだけ仕事を押し付けてもらっているかを思い知ってもらおうと思った訳じゃないし、あわよくばこれで恐怖による束縛が出来てファミリア運営が楽になるなぁとかそんなことを内心で思っていたとかそう言うアレな事はアレなのでアレだ。そういうことだから。

 そうして遊びに来た私は、時折手作りのドナ・ウォノ用の服を用意して二人に癒されながらもヴェルトールを観察した。彼は時折何かを思いついたように工房で何かを作ったりしていたが、怖ろしく洗練された手さばきで何かを作ったかと思うと直ぐに廃棄処分していた。人形師としての自分と「灰色の世界」の境で苦しんでいるのだ。

 何度か、何を作っているのかと声をかけたことがある。するとヴェルトールはこちらを振り向き、彫刻刀を恐ろしい速度で振るって手元の木材を削り、出来上がったものを手渡してきた。何かと思って見れば、それはアスフィ自身の顔を掘った彫刻だった。しかも彫刻刀で彫ったとは思えないほどに曲線が滑らかで、眼鏡までもが完璧に彫りぬかれていた。

「やるよ。モデルになってくれてありがとさん」

 彼自身、何を作ろうとしたのかが分からなかったんだろう。ただ、手に物を取らずにはいられなかったんだと思う。僅か10分足らずでここまでの作品を仕上げる彼の手先には神力が宿っているのかもしれないと思った。
 だが、それで終わったら面白くなかったアスフィは、その彫刻に色を入れてコーティングを施した。魔道具はデザインも大事であるためこの手の細かい作業は慣れたものだ。彼に対抗する意味も込めて数分で塗り終えた。

「いい素材をありがとうございます。ふふっ、初めての合同作品ですね」

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