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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十一話 馬堂の手管
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にしてみましょう」
 杉谷に、もういいよ、と頷くと山崎に向き直る。

「‥‥‥父からはなにか」

「ございます、これを。それと言伝を大殿様から」
 封印の施された書簡を渡し、山崎は薄く笑みを浮かべた。
「言伝?」

「はい、“お前には苦労を掛ける、好きにしろ“と」

「‥‥‥ん」
 そっと瞼を揉みながら豊久はうなずいた。
「ありがとう、山崎。辺里や柚木達にもよろしく伝えておいてくれ」

「はい、御気をつけて」




皇紀五百六十八年八月一日 午後第八刻 蔵原市内 某居酒屋


 さて、蔵原は駒州と龍州を結ぶ要路、内王道の結節点である。険しい山が連なる虎城を抜けた行商人達の宿場町として発達してきた。
 現在でも龍州の入り口の一つとして観光地の一つでもあり、また太平の世においても陸軍が定期的に血を流していた虎城に巣食う匪賊討伐に赴いた将兵達が赴任を終えた後にここで羽を伸ばすことも多々あった。
「お客さんおひとりですかぁ?」
 女給が出迎えたのは仕立ての良い灰色の袖なし羽織に紺色の馬乗り袴と地味ではあるが上品な服装の男であった。
 苦労を重ねているのかやや窶れているが、二十の半ばを過ぎた程度だろう。
「うんにゃ、待ち合わせだよ。‥‥‥おやおやこちらさんも商売繁盛の御様子」
 愛想の良さそうな笑みを浮かべた男はきょろきょろと店内を見まわしている。
 〈帝国〉軍侵攻による周囲の二千名に満たぬ町村の避難民がおしかけ、更に第三軍が蔵原市周辺に駐留するようになって早数日、外出許可を受けた将兵までも出入りするようになり、蔵原市街地はどこもかしこも人があふれ返っている。

「待ってくださいねぇお客さんのお名前は?」

「ん?えぇとあぁ――居た居た」

「やぁ若旦那さん、お待ちしておりましたよ」
 手を挙げて彼を呼ぶ男もまた大店の手代といった風情を漂わせる三十路絡みの男だ。
「おう、おひさ。村さんも元気そうで何よりだ」
流石に酒は飲んでいないようだがすでに食事を終えたようで黒茶と干菓子を楽しんでいる。
 既に上客と見なしたのか女給が愛想よく若旦那と呼ばれた青年に歩み寄る
「お客さん何になさいます?」

「そうさねぇ‥‥‥昼にロクなもん食べてないしなぁ。葦川鮎の天婦羅定食に追加で龍州鯰のかば焼き4つ」

「4つ?ウチの鯰は大きいですよ?2つで十分ですよ!」

「いや、2つと2つで‥‥‥いややっぱいいや。かば焼き2つに温うどん一つ」

「はい、お客さん!」
 女給が声の聞こえないところへ言ったことを見計らい、青年は対面に座る男に尋ねた。
「‥‥で、どうなんだ?」
「でかいですよ、結構美味いですし」
 とぼけた顔で茶化す“村さん”を半眼でじっとりとした視線を向ける。
「違
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