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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 10
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は知らないが、小賢しい絡め手を使ってまで回収したがっているのだ。海賊達に手放す意思が無いのは明白。それはきっと、軍人が居ても居なくても変わらない。
 いや……最悪、軍が現れた所為で血生臭い惨劇を繰り広げかねない。
 (そうか。現時点で私が軍人や自警団に近寄る気配を見せても駄目なんだ。ハウィスから遠ざけるつもりで海賊の情報を売る気かと誤解される可能性がある。んがああぁあ! 何処までも面倒臭いぃっ!)
 「そんなにキツいなら、昨日贅沢しなければ良かったのに。ごちそうさま」
 「ふぇ? あ」
 気付けば、ハウィスが苦笑いで両手を合わせていた。料理は綺麗に無くなっている。
 「……違うよ。お金の事で頭を掻いてたんじゃないの。仕事量が減ったら必然的に神父様との不毛な勧誘対決が増えそうで嫌なだけ。早く終わると良いのにね、バーデル軍人の捕り物劇」
 ミートリッテも慌てて朝食の残りを平らげ、二人分の食器を重ねて洗い場へ下げる。
 「そうね。……よりによってこんな時に来なくても良いのに……」
 「ん? 何か言った?」
 「全く同意見だと言ったのよ。物騒な臭いがしてたら、店の売り上げがガタ落ちしちゃうもの」
 「あはは、深夜営業には痛手だよね」
 「笑い事じゃないわよ! 万が一「警備強化中は営業停止だ」なんて言われたら、生活費の回収も難しくなるんですからね!」
 「それは困る。」
 「でしょう?」
 ミートリッテは食器を洗いながら。
 ハウィスはテーブルに両肘を乗せ、甲に額を押し当てながら。
 「「はあぁ……大迷惑……」」
 盛大な溜め息を、同時に吐き出した。



 支度を済ませて果樹園へ走ったミートリッテを待っていたのは
 「明日から三日間、休業する」
 という、農園主ピッシュの宣告だった。
 「明日からですか? でも、作業が間に合わないですよ!」
 しかも、明日から三日間。
 『依頼』の期日まで丸ごとお休みとは、何の皮肉か。
 「果実が傷むギリギリの線が三日だ。その代わり、今日は少し多めに頑張ってくれると助かる」
 「勿論です! せっかく丁寧に完熟させたオレンジを、みすみす腐らせはしません!」
 経験上、食べ物を粗末に扱うのは赦せないミートリッテ。
 オレンジを大切にする彼女に、同じ農業従事者としての誇りを感じたピッシュは、満足気に頷いた。
 「頼むよ」
 「はい!」
 今日の作業は完熟オレンジの選別だ。色、形、大きさで等級を分け、それぞれ決められた数毎に梱包する。
 とにかく数が多いのと微妙な色の違いを見極めるのが大変で、選別作業には膨大な時間を要求されるのが常だ。
 特に今回は、三日分をできるだけ凝縮しなければならない。
 一日中缶詰になる覚悟を整えて保管庫へ踏み込み……顔だけで振り返った。

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