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東京百物語
カミテにいる女
六本目
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なって思ってたんだけどちゃんと聞いてたんだ?」



「ゴフォ!」



 水も飲んでいないのに日紅は盛大にむせた。横ではしれっとした顔で青山が「大丈夫?」とかなんとか言いながら背をさすってくれる。



「清!悪ふざけはやめてって!」



「ん?ふざけてなんていないよ?」



「…(せい)がいるの知ってるくせに…殴られるよ?」



「ははは、あいつなら本当に殴りかかってきそうだ」



「清、さぁ…。彼女つくんなよ」



「何故?」



「あたしのことからかってるヒマがあるんだったら、高校の時みたいにつくんなよレモンティーでも何でも渡して…折角選り取り見取りなんだから」



 この青山清と言う好青年、高校時代は好きになった女子にレモンティーを渡すと言う何とも摩訶不思議な行動をとっていたのだ。でもそれもいつしかぱたりと止み、同時に青山の彼女の話もめっきり聞かなくなったという過去を持つ。



「じゃあ、ハイ」



 青山はレモンティーのパックを日紅に差し出してきた。



「ええっ、今どこから持ってきたの!?」



「そんなこともあろうかと」



「どんなこと!?奇跡の確立でしょ!」



 そして日紅はそのレモンティーを突き返す。



「いらない。あたしには犀がいるもん」



「残念」



 ちっとも残念だとは思っていない顔で、青山は自分でその紙パックを開ける。ストローをさすと、再び日紅に差し出した。



「はい」



「え、だからいらないって」



「寝起きでのど渇いてない?『そんなこともあろうかと』買っておいたんだけど」



 笑顔でレモンティーを渡してくる青山に、思わず日紅は受け取ってしまう。



「…あ、ありがと」



 自分のためだと言われれば、軽口に囚われて受け取らないのも申し訳が無いと日紅はお礼を言う。



「どういたしまして」



 にっこり笑う青山は、本当に外見だけは非の打ち所が無い「王子様」だ。



 日紅は、くちびるを尖らせてストローを口に含む。



「清には幸せになってほしいのにな…」



「それはどうも。好きだよ、日紅」



「清!」



 日紅は怒ったように言って、レモンティーを持った手と反対の手で、軽く青山の頬をつねった。生きる芸術作品、と言われる彼にこんなことをできるのは世間広しといえども彼女ぐらいのものだろう。



「だから、そういう冗談をやめなさいって言ってるの」



「冗談じゃ無いのに」



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