暁 〜小説投稿サイト〜
戦国御伽草子
肆ノ巻
御霊

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勾玉を呆然と見ていた。



『あはははははははははは!あーはははははははは!』



 聞き間違いじゃ無い、楽しくて仕方が無いと激しい笑い声が部屋に満つ。



「―――――――…」



 これは、この勾玉は、前田家が焼けたときに、あたしが持っていた勾玉よね。兄上が亡くなられたとき、どことなく形見のような気がしてずっと肌身離さず持っていた、勾玉。



 それが、こんなにも呆気なく…。



「ふっ、ふふ、ふふふ…」



 今度そう笑ったのは、あたしだった。



「瑠螺蔚さん?」



 空気が変わったことを感じたのか、高彬が訝しげにあたしの名を呼んだ。



『あははっ!あーははははは!あはは…は!?」



 あたしは素早く目の前の虚空に手を突っ込むと、掴んだものを思いっきり引きずり出した。



 掴み出されたのは、何が何だかわかっていないという顔をしている女童。畳に腰をつけ、あたしを呆然と見上げている。その腕を掴んでいるあたしの手が、青く燐光しているのが見えた、けれど今のあたしにはそんなことどうでもいいこと。



 全身に力が渦巻いているのがわかる。まるで、兄上の霊力(ちから)のような。あたしの怒りと相俟(あいま)って、それはうねるように天を衝く。



 女童の目に、初めて怯えが過ぎる。



「お、お、おまえなんかっ!おまえなんかっ、死ねば良い!」



 どうして、そんなに、あたしを憎むのー…?



 そう心に思ったとき、(にわか)に霧がさぁぁと満ちたように、辺りの景色が掻き消えた。畳も、開け放たれた障子も、刺さったままの庖丁さえ。



 ただただ白い空間に残ったのは、あたしと、高彬と、女童だけ。



「これは…」



 高彬が信じられないと言うように呟く。



 女童はきっ、とあたしを睨み付けた。視線だけであたしが殺せるものなら殺してやりたいとぎらぎらと光る瞳が言っていた。



 さっとあたしに向かって掌を翳した、が、何も起こらず、じっと女童を見つめるあたしに、すぐにその顔が驚愕に歪む。



「―…何故!?」



 悲鳴のような声が女童の口から漏れる。



「何故、おまえにこんなことができる!?」



 その声が合図だったように、再び白濁した景色が歪み、どこからともなく、赤子の泣き声が響く。



 白い空間は消え去り、あたし達は見覚えの無いところにいた。



 どこかの武家の母屋。玉砂利が敷かれ、青々とした杉が庭園に植えられている、あたしには見覚えの無い場所。しかし、女童には違ったらしい
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