肆ノ巻
御霊
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と)を吐く。
「だから、そいつを、殺してあげるー…」
すっと腕を持ち上げて、高彬を指さしたかと思うと、そう言って女童の姿がふっと掻き消えた。
笑い声もぴたりと止んでいる。不気味な静寂が、辺りを包む。
ピンと張られた緊張の糸が見えるよう。
…高彬を、あたしが守らなければ。
唾を飲み込むのさえも躊躇するような空気の中、ふっと視界の端に何かが見えた、気がした。
「高彬ッ!」
あたしは咄嗟に高彬を巻き込むように、押し倒しごろごろと転がった。あたしが庇うつもりだったけれど、いつの間にか高彬の胸に抱え込まれるようにしてあたしの方が守られていた。
すぐに包まれていた腕を振り払って起き上がれば、あたしたちが今の今まで立っていたところに、畳の藺草を断って深々と庖丁が突き刺さっていた。それを見て、すっと血の気がさがる。
どこからー…いや、どこからとかそんなことは今はどうでも良い!死人に常識の通じるハズもないし、女の恨みがこれで終わるわけも無い。次の手に備えなければ。
「瑠螺蔚さん!」
今度は高彬の声が飛んだ。同時に体ごとぶつかってきた高彬に押し倒される。トスンと音を立てて、目の前を庖丁が飛び、襖に刺さる。
それを目で追っていたら、ふっと顔に影が差した。咄嗟に、覆い被さる高彬を蹴り飛ばして、あたしも体を捩る。けど、少しだけ間に合わなかったみたい。
抜き身の刀が、てらてらと光りながら、あたしの首元に刺さっていた。でも浅い。血があふれ出てくるのはわかったけれど、あたしは極めて冷静に体を起こした。
『あはは、あははっ!』
どこかでまた、女童の笑い声が聞こえた。
「瑠螺蔚さんっ!」
高彬が悲鳴のような声をあげる。
「これくらい大丈夫よ。動揺しないで!あのコの狙いはあんただってこと、忘れんじゃないわよ!」
あたしが首を押さえて叫ぶと、高彬はぐっと唇を噛みしめて、気持ちを落ち着けるように息を吐いた。
思ったより血が出てる。ふと首元をぬめりが重く滑り落ちて、つんと引かれたように胸元で止まった。見れば、それはいつも身につけていた勾玉だった。ただし、あたしの血に塗れて深紅に光ってはいたけれど。
まるで、血赤珊瑚みたいだ−…。
ふっとそんなことを思った瞬間、目の前の勾玉が、前触れも無く、細かい結晶となって、砕け散った。
あたしはひゅうと息をのみ、衝撃で弛む首もとの紐と、さらと空気に溶けるようにして消えた
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