肆ノ巻
御霊
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。瑠螺蔚さん…あなたが本当にここに居ると、僕に信じさせてくれ…」
高彬の手があたしの腕をたどり、肩を上る。それが交差し、震える腕にきつく囲われる。
その時だった。
『…ッ、ふ、ふ、ふふふふっ、ふふふふ…!』
あたしは弾かれたように顔を上げた。
闇からこぼれ落ちたような笑い声がふいに聞こえたのだ。
『ふふっ、ふふふ、ふふふふふふ…!』
楽しくて楽しくて仕方がないような、無邪気で、残忍な幼児の笑い声…。聞いたことがある、いや、忘れられないその声。
高彬も声に気づいたようで、警戒するようにあたしを片腕に抱き、もう片腕で刀を握った。
『ころす』
笑い声がぴたりと止み、その吐息のような静寂が不気味に辺りを覆ったとき、目玉が乾くほどの緊張に負けて、ぱちりと瞬きをした、そのー…瞼が閉じて上がったその一瞬で、部屋の中央に女童が現れた。確かにその前には何も存在しなかったと言うのに、萌葱色に鮮やかな黄や赤の花が散った大分上等な衣を纏った、ほおの赤みも抜けきらない少女が確かにいた。理解できない現象に、さしものあたしも驚きを隠せない。
「おまえー…」
高彬が鋭い声で言った。
「おまえ、琵琶の湖にいた、あの女だな?」
問いながらもそれは確信を持って言っているように聞こえた。
「ふふふっ」
童は老熟した女のように慣れた手つきで口元を覆うと、高彬の言葉を肯定するかのように笑う。
「…なに、高彬、あんた知ってんの?」
童から目を離さず睨み付けたままで言うと、高彬はいやと首を振った。
「前、琵琶の湖で。見かけただけだけれど」
言葉少なかにそう言うと、高彬は強くあたしの肩を抱き直した。
女はそれを見て、嬉しそうににいっと笑うと、ゆらりと一歩、あたしたちに近づいた。
いや、冷静になれ、あたし!「あたしたち」じゃない。狙いはきっとー…高彬。
後ろには障子が開き、いくらでも外に逃げ出せるし、本来なら、ちいさい女童の足ならあたしたちに追いつくハズもないー…んだけど、多分、事はそう上手く運ばない。そうあたしの直感が告げている。
「あんた…」
あたしは静かに言った。
「あんた、死人ね?」
そう言った瞬間、女童のその唇が壮絶な笑みを描いた。「よくできました」と言わんばかりに。
あたしはあたしを守ってくれようとする高彬を無理矢理押しのけ
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