暁 〜小説投稿サイト〜
戦国御伽草子
肆ノ巻
御霊

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手をさしのべて起き上がらせる。立ち上がった高彬の目を決して逸らさないよう意識しながら、あたしは言った。



「…もし、本当にあたしが死んだら…忘れて。ぜんぶ。あたしに関わること全て。決して死んだあたしに囚われないで」



 それを聞いた瞬間、高彬の顔がさっと歪んだ。そしてまた、有無を言わさず強く抱き寄せられる。高彬の肩が震えている。いや、肩どころじゃ無い。体も小刻みに揺れ…え、まさか笑ってる?



「ちょっと、高彬?」



 あたしは顔を上げると、じとりと高彬を睨み付けた。



 今あたし、結構真面目なこと言ったんですけど?



「っははは、いや、ごめん。これぞ本当に本物の瑠螺蔚さんだと思って…。幻の瑠螺蔚さんは、少なくとも大の武士をどついたり転がしたりすることなんてなかったなぁ、と」



「オホメニアズカリコウエイデスっ」



「うん。誉めてるよ。好きだよ、瑠螺蔚さん…」



 ゆっくり笑いを収めた高彬はそう潜めるように言うと、再びあたしを抱き込むように顔を伏せた。だ、っからさぁ!スキダとか、そういうこと言われると困るんだってばぁ!だってさぁ…なんて返して良いかわかんないじゃん…。



 あたしは高彬の腕の中、居心地悪そうにもぞもぞと身動きした。



「…ひどい人だね。本当に、酷い人だ、あなたは…。全て忘れろなんて、簡単に言ってくれる…」



 吐息のような静かな声が落ちる。もうそこに、笑いの欠片はどこにも無い。あるのは、剥き出しになった感情だけだ。



「…うん、そうね。あたしは確かに酷い人間よ…」



 あたしも秘やかに言葉を紡ぐ。どう言われようと、譲れない。そこは。



 だって、ねぇ。こんなに苦しんでいる高彬を見てしまったら、言ってあげるしか無いじゃない。他でもないこのあたしが。ひとの心は移ろうものだから…。



 忘れても良いんだよ、と。



 それは決して、悪いことじゃないんだよ、と…。



「忠実殿もそう言っておられたんだ。あなたたちは確かに父娘だよ…でも、じゃあ、僕の気持ちはどうしたらいい?『忘れた』と、一生偽り続けることになる僕の心は」



「いつか偽りじゃ無くなるわ…」



「それは、『いつ』?確かでないものを当てにして生きれるほど、僕は強くない…」



「強いわよ。大丈夫。あんたは…こんなにいい男になったんだから、大丈夫。あんたは、あたしなんかに囚われなくても生きていける…」



「やめて。もう聞かないよ、自分のことを『なんか』なんて言う瑠螺蔚さんの意見は…ああでも、やっぱり何か話していて。こうしていてもまだ不安なんだ
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