第百五話
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綺麗なフォームで水場に飛び込んでいく。当然ながら沈んでいくものの、ビート板の浮力によってユウキごと水面に浮かび上がる。
「ぷはぁ!」
「ま……待ちなさいよ! わたしも……」
先の攻略戦の最中に、どちらが先に泳げるようになるか勝負、などと言い出した手前。セブンもユウキに続いて水場に入ろうとするが、流石に彼女のように飛び込むことはせず、ゆっくりと足をつけて水場に入っていく。
「……あれ、あったかい」
「ホントだ! ……ショウキ、ありがと!」
足をつけたセブンに飛び込んだユウキ。どちらもが思った感触と違ったのか、不思議そうに自分の肌を濡らす水の感触を確かめていて、ユウキが何かに気づいたようにこちらへ微笑んだ。……わざわざこの層の場所に太陽が南中する時間を調べたとか、そんなことが言えるわけもなく、ユウキの輝くような表情から目を逸らす。
「これなら……っと!」
暖かい水にいくばくか緊張感が薄れたのか、セブンはゆっくりと水の中へと入っていく。必死にビート板に掴まってはいたが、どうにかこうにか彼女も浮かぶことに成功したらしい。
「じゃあ、その柄を掴んで泳ぐ体勢になって、ばた足でもいいから進んでみてくれ」
水場の上から二人に指示を出していく。ビート板の胴体に掴まっていた二人は、持ち手となっているビート板の柄を掴むと、身体も自然と浮かんで泳ぐ体勢となっていく。
「ショウキー! この柄のところスッゴく持ちやすいよー!」
「………………まあな」
謎の柄を絶賛するユウキに対して、俺にはどう答えていいか分からない。あのビート板も一種の日本刀と言えるのか――と頭を抱えていると、二人はビート板を持ちながらも泳ぎだした。
「っと、とっ、と」
「お、泳いでる……ボク泳いでるよ!」
「慣れてきたら水にも顔つけてな」
まだ少し苦戦しているセブンに対して、ユウキはコツを掴んだようで、なかなかの速さで泳いでいく。元々走るスピードや飛翔するスピードが規格外な彼女にとって、水泳もコツが掴めればあの程度容易いことだろう。ならばセブンを教えるか――と思えば、ユウキに負けじとスピードを増していた。
「……負けないわよ!」
……ああ見えて負けん気は強いらしく。根性だけでユウキに肉迫せんと泳ぐセブンに、心中で少しばかり感服しながら――俺は暇になった。水に顔をつけて泳いでいくなど、何も言わずとも徐々に水中に適応していく彼女たちに、特に今は言う必要があることもなく。
「……ん?」
――ユウキたちから意識を逸らした故か、一瞬だけ、どこからか視線の気配を感じた。こちらを見ているような、監視しているような……周囲を眺めてはみるが、やはりそんなことをしている者の姿は見えない。
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