第十話 地球の出産
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目くるめく動向に、武井はもはや言葉を失っていた。
宇宙空間へ放出された灼熱の塊、巨大な火の玉。
あまりの眩しさに百香はめまいを感じ、思わず武井にもたれかかる。
その時、モニターが突然ぷつっと切れ、数秒後に
質感の違う別の映像が浮かび上がった。
それを見て、誰もが「あっ」と短い声を上げた。
どこかで見覚えのあるその映像。
一言で言うなら、それは「人類の闇」、「黒歴史の記録」。
戦争、テロ、暴動、迫害、激しい怒りと憎悪の連鎖。
環境破壊を承知の上で、物質文明に溺れ驕る現代人。
欲と嫉妬にまみれ、我が物顔で世界を操ろうとする成金亡者たち。
人類の歴史をダイジェストにまとめた映像。
なんなのだ…、あの火の玉が見せているのか?
「そうか…、そうだったのか。」
武井はようやく気づいた。
「人類の悪行、醜い歴史のすべてがあの中に刻まれているんだ…。」
「なに、武井さん… わかるように言って。」
「つまり、あの火の玉はメモリーディスクなんですよ。
人類の歴史を記録したデータ、あれはそのコピーなんだ。
母体から分裂した細胞、もうひとつの地球…」
「もうひとつの地球?」
「なんてことだ…。地球は…、生命体だったのか!!」
母なる地球。
文字通り彼女が産み落としたものとは、
“もう一つの地球”だというのか…。
モニターが暗転し、元の映像が再びモニターに映し出された。
だが、さっきと様子が違う。
よく見ると、火の玉が小刻みに震えていた。
「ブーーーン ブーーーン」
低周波が絶え間なく押し寄せてくる。
音とともに、震えがどんどん大きくなっていく。
それは、百香たちの居るフロア全体を大きく振動させるほどであった。
床が不規則に傾いて、皆、立っていられず屈み込む。
だが、誰もモニターから目を逸らさない。
百香も武井とキャシーに支えられながら
事の成り行きを最後まで見届けようと、必死に火の玉を見据えた。
「あっ! あれは…」
誰かが指さす空間に、大きな丸い穴が開いた。
淵は白く、回転しているようだ。
水を貯めた洗面ボウルの栓を抜いた時にできる渦のような、
しかし、質感はむしろゴムに近い。
それが見る間に、火の玉を丸呑みしていく。
まるで生き物のように…。
「わおーっ!!」
「きゃー!!」
「ひぇー!!」
フロアのあちこちで、言葉にならない声が沸き起こる。
想像を絶する出来事に百香は瞬きを忘れ、
ぽかーんと開いた口は、ただ息をするばかりであった。
最後の炎がぱっくり飲み込まれると、時空の穴もぷっと瞬時に閉じた。
北極の上空、そこには留め処ない真空の闇だけが
何事も無かったかのように、ただ広がるだけだった
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