第6章 流されて異界
第140話 蛇神顕現
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ってから俺に失った物があるように、彼女にも同じように失った物がある。ただそれだけの事。ならば、その能力もすべて含めて彼女なら、それも受け入れて……役に立てるしかない。
合理的に。此の世に存在して居る物にはすべて意味がある。その考えに基づいて。
「可能です」
小さいながらも、はっきりとした声でそう答えてくれる弓月さん。何故か、その声に重なる鈴の響きと……微かな衣擦れの音。
そして、一瞬の空白。見鬼が捉えたのは何かが動く気配。おそらく、彼女が首肯いたのだと思う。
「彼女に次の策。大祓いの祝詞を唱えられるのなら、唱えてくれ、……と伝えれば良いのですね?」
答えと同時に彼女に纏わり付くかのように周囲を舞っていた炎の蝶たちが、氷空高くに舞い上がって行く。微かな鱗粉……火の粉を撒き散らせながら。そして、足元に蟠っていた百足は、俺の施した結界の周囲を護衛するかのように動き回り始めた。
龍に取って百足が天敵ならば、蛇に取って百足も難敵である。流石に首だけで有に五十メートルはあろうかと言う巨大な多頭龍を相手に正面から挑むのは無理があるにしても、この砦の護衛役としてならば、弓月さんが召喚した化け百足でも十分に能力を発揮してくれるでしょう。
後は彼らと砦が健在の内に、あの蛇神を再封印すれば今回の事件も終了と言う事。
……と至極簡単な事のように、そう結論付ける俺。もっとも、そんな事が簡単に為せる実力があるのなら、そもそもこのような事態には至っていない。その事実は軽く無視。
そして――
「高天原に神留まり坐す、皇親神漏岐神漏美の命以ちて、八百万神等を神集へに集へ賜ひ――」
今までの事件の際と比べると、格段に安全な場所から祝詞を唱え始める俺。但し、安全だからと言って、心が穏やかであった訳ではない。
その俺の声に、比較的近い位置から少女の声で唱和が行われ……、
「神議りに議り賜ひて、我が皇御孫命は豊葦原瑞穂国を安国と平けく知ろし食せと――」
その声に重なる軽やかな鈴の音。続く弦の響き。
刹那、上空。今と成っては全体の五割を赤系統の光で埋め尽くされている其処で、異常に接近しつつ有った強い紅と巨大な赤い呪力の塊が再び引き離される。
そして一瞬の後、大音声。音自体に威力が籠められたかのような叫びが発せられた。
やれる!
流石に一矢で致命傷には至らない。しかし、そうかと言ってまったく歯が立たない訳でもない。弓月さんの放った鳴弦の一撃は、確かに赤い呪力の塊を貫いた。
アラハバキが現実界に顕現させられたのは未だ首のみ。おそらく、あの虚無を湛えた池に開いた次元孔の向こう側には、その首に相応しい巨体が控えている
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