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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第140話 蛇神顕現
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 吹き荒れる暴虐。更に、まるで千の弓矢が一斉に放たれたかのような轟音が続き、急ごしらえの霊的な砦を氷空からの水滴が濡らした。
 そして、その俺の見つめる……現実の視力を失った俺が見鬼の才で感知している先に存在していたのは、巨大な赤い影。地上にへばり付くように存在している俺たちを見下すような巨大な畏れを纏った存在。
 但し、生命の躍動を示すその色から俺が感じたのは……。
 ――死、そのものであった。

 ええい、アイツ(這い寄る混沌)が顕われてから、事態が一気に進み過ぎる!
 対処する時間が足りない! かなりの焦りを押さえつつ、次の事態に対処する為に導印を結ぶ俺。今は防御力の強化よりも、砦内に存在する気を正常に保つ為の術式の起動を優先したのだ。当然これは、邪神の顕現が引き起こす精神汚染に対処する為の処置。
 タバサや有希が正常だったからと言って、弓月さんが無事だとは限らないから。

「その眼は赤酸漿(あかかがち)の如くして、身ひとつにして八頭八尾あり……」

 その俺から解放され、視線を上げる事の出来るようになった彼女が、呆然とした雰囲気で小さく呟く。
 その赤い巨大な影から立ち昇るのは瘴気。先ほどまでこの地を覆っていた気配が、すべてこの時の序章であった、そう感じさせるに相応しい状況。これは、通常の神が纏う神気と言うべき代物ではない。
 これは――

「忍さん。……あれが、アラハバキなのですか。あれではまるで……」

 八岐大蛇――
 最後まで言葉にせず、そう問い掛けて来る彼女。ただ、一瞬、彼女が誰に話し掛けたのか分からなかった俺。それぐらい、何の前振りもない唐突な呼び掛けであったのだ。
 但し、それも一瞬の事。こんな場所、更に戦闘中にこのような妙に甘酸っぱく、面映ゆいような思いに囚われている訳には行かない。
 それに――
 それに、皆まで語らずとも彼女の言いたい事は分かる心算。
 何故ならば、先ほど弓月さんが漏らした言葉は――

「一九九九年に俺が出会った八岐大蛇は黄金龍だったから、素戔嗚尊(すさのおのみこと)櫛名田比売(くしなだひめ)が戦った多頭龍と言うのは、本来、アイツの事だったのかも知れないな」

 ――古事記内の非常に有名な一節。これを知らなければ日本の術者とは言えない、と言うレベルの内容。
 その俺の言葉に重なるように上空で爆発する炎の霊気。……って、マズイ!

「長々と説明している暇はない。当初の計画に平行して、さつきの援護を頼む!」

 一気に終末へと進み行く事態に強く舌打ち。
 あの馬鹿、俺がまるで死に急いでいるような事を言っていたが、自分の方が余程危険な事をしているやないか。……と、続けて心の中でのみ悪態をひとつ。さつきには、未だ物理や魔法を反射する仙術を行使し
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