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Dies irae ~Unlimited desire~
回顧録@

[8]前話
そこはこの世ではなかった。
かといってあの世でもない。
ただ黒い空間が果てしなく広がっていた。無理に例えるとするならば無の世界。
夢か幻か?
その判別さへしかねるその空間に2人の男がいた。
1人は黄金の髪をたなびかせ椅子の背もたれへ体を預けていた。
その黄金の獣の下で、みすぼらしい恰好をした男が虚空を見つめていた。
美しい者とみすぼらしい者。
一見相反するように見える2人であるが、本質は同じだとお互いに思っていた。

「獣殿」

「どうした?」

「獣殿も感じているのだろう?この高揚感に似た気持ちを。あの男えみやを私たちの次元へ飛ばすのを何故止めなかったのでしょうか?」

「ふっ……」

 黄金の獣は笑うと足元を見た。
そこには黒円卓騎士の幹部である大隊長コマンダントの姿があった。
黒は死を求め、白は狂乱を求め、赤は忠誠を誓っていた。
大隊長達はそれぞれの思いを胸に、復活の時を待っていた。
 むろんそれは黒円卓騎士団首領であるラインハルト・ハイドリヒも同じだった。

「あの男一人が動いたところで、我が爪牙が倒されるとは思えないな。カールはどう考えている。結末を知っているのでは?」

「ラインハルト卿。私は全ての結末を知っているわけではない。たしかにどのような事象にも私は既知感を覚えてしまう。だが、既知感とはそうあってから初めて気づくもの」

「なるほど、それは失礼した。では卿にもまったく予想できないと」

「故に、彼が実際に動いてからではないと私は何もわからない。だが、彼の渇望もまた我々と同等またはそれ以上。私の術式を良く引き立ててくれることは間違いない」

「ふっ。まったくカールも人が悪い」

「だが、あなたも止めはしなかった。それはひとえに、あなた自身も早く既知感から逃れることを望んでいるからだ。違いますかな、獣殿」

「その通りさカール。私は早く、この本気になれない世界から抜けたいのだよ」

 メルクリウスはえぇ、知っていますともと呟くとラインハルトと向き合った。
 目的を同じくしている彼らは盟友であった。
もっとも、水銀メルクリウスが首領であり敬愛すべきラインハルトと親しくしていることを快く思っているものは、騎士団には皆無だった。
水銀メルクリウスは黒魔術を授けた師でありながらも、祝福のろいをそれぞれに与えた忌むべき存在でもあった。

「では獣殿。そろそろ開幕と行こうか」

「この退屈を晴らせるのならばどこまでもいこう。では行こうか、我らがドイツへ」

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