84話 剣士
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「陛下……お話したいことがございます」
鋭い破裂音とともにトヘロスの魔石とかいう馬鹿高い高級品を地面に打ち付けて砕き……決して簡単に砕けるものではない……、聖水を振り撒く。本気の、魔物避けだ。それをいとも簡単にトウカは、した。……いくらかかったんだそれ。
武器を何一つ身につけていない彼女は、短剣すら隠せないような、寒さまで感じそうな薄着で跪き、首に巻いていたチョーカー、もとい変声器を外す。
鎖帷子や服の重ね着をしていないトウカは後ろから見ても少女らしく酷く華奢で、武器を隠しようもない緩やかな服は……正直俺より逞しくどんな魔物でも投げ飛ばせそうな力を持つ腕を隠すから尚更だ。……細身でもついた筋肉だけはマジだった。着せ替え人形にしようとしていたゼシカが黙って半袖を選択肢から外していた。
チョーカーを外した途端、露わになる古い傷跡。首の後ろにまで及ぶそれはここからでも見えてしまう。痛みはないと説明されていても思わず息を飲みそうになる……目立つ傷跡にトロデ王は訝しげに佇まいを直した。すべてを話す、そう決めている背はいつも頼れる剣士とは思えないほど小さく見えたが、堂々たる姿は……ああこれが貴族か。本物、か。
跪いているから、こちらからはトウカの顔は見えない。彼女の表情は少しも分からない。ただ分かるのは感情の揺れを感じさせない静かな声、そして理解しているのは恐ろしく王に従順な彼女が何をしでかすのか分からない、不安。
「私、トウカ=モノトリアは」
アルトの声は、うっかり俺が魅了されかねない……いや既にされた……高い少女の声に変わった。ただただ圧倒的な強かな剣士、誰よりも勇敢で獰猛とすら思える存在から発せられる少女らしさは馬姫すら固まる。
もっとたじろげばいい、と思ってしまったのは俺の勝手すぎる意見か。レディは騎士に守られればいいんだ、花と平和に過ごせばいいんだ、断罪なんてされる必要は無い、なんて言うのには彼女は強すぎたし、断罪なんてと言うのには彼女と過ごした時間が短すぎる。
彼女と俺は仲間だ、かけがえのない。だが俺は「十年ともに過ごした親友」ではない。「初めから旅に同行していた仲間」でもない。途中加入の、厄介払いされた問題児の騎士だ。今俺は何も、言えない。
隣で唇を噛み締め、言いたいことをすべて飲み込んでいる近衛兵も……親友について言いたいことはあれど君主の前では口ごもっているんだろう。まったく、権力なんて嫌になるぜ。この王は変な使い方をしない、と信じたいが。
「私は、女です、陛下、姫。どうか、お二方を騙していた罪、お裁きください」
「……なんと?」
「モノトリア家長子……トウカ=モノトリアは女でございます。男のみ志願できる兵に女の身で志願し、あまつさえ近衛となり、御身を
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