第一章:大地を見渡すこと 終
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口元が緩んで髪の毛を昨日の夜にやったようにゆっくりと掻き揚げてやる。「役得、役得」と小さく呟きながらこれをする男の心には、自分自身もわからない変な燻りが出来始めた事にまだ気づいていない。
「おっし、これで準備万端っていったところね」
「・・・・・・」
刻はあれから五つ半ほど過ぎたあたりか。一日かけた商品売買と情報売買は功を奏して、必要な品を買っただけでもかなりのお釣りがもらえたのは僥倖である。これならこれまで控えてきた服の新調だってできるかもしれない。仁ノ助の懐にとって嬉しい出来事が立て続けにおきているのだが、彼の表情から憂鬱な疲れの色が見え隠れしている
町の通りを歩いて町人達とすれ違う度に「噂の二人はこの者たちなりや?」と興味津々な目で見つめられるのは若干肩がむずむじしてきて億劫|《おっくう》だ。そうでなくも二人で買い物をする羽目になった経緯を思い出すことも頭を抱える要素となっている。
先ほどまで痛んでいた腹を押さえてこうなった原因が頭を過ぎるのを彼はうんざりしながら思い出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝、あれから彼女が起きるまで窓の外をぼんやりと見つめていたら、いきなり腹の真上を強い衝撃が走り自分の体が寝台の外へ弾き飛ばされた。鍛え抜かれた体でも突然の痛みを発する。
「おおおぉぉ・・・・」
そう唸りながら仁ノ助は寝台の上に拳を繰り出して膝立ちとなっている阿修羅の姿を垣間見た。顔が赤くなっているそれは自らの武勇を誇っている。見事な正拳で男の体を吹き飛ばしたそれは拳だけなら天下を取れるのかもしれない。
ポーズを決めるように息を荒げて佇む姿は絵になって・・・
「なにしてんのあんた!!!!!」
・・・・・・.いなかった。
阿修羅と思われたそれは全くの別人であり、実際は寝起きの詩花である。ただ寝起きという割には顔から眠気が白い湯気となってぶっとんでいる。男に無防備な寝顔を見られたことを意識する前に、起きたらなぜか男の顔が目の前にあったことに思わず驚いたが故に、このような怒りの拳を繰り出したのであろう。そしてその後に前者を意識して、乙女の羞恥心を覚えたのである。
顔の赤みは頬を染め上げて、耳も若干の恥ずかしさを覚えているのが彼女の短髪から見え隠れしている。大きな胸が荒い息と共に上下し、先ほどの動きで寝間着が着崩れて服の間から胸の谷間と健康なへそが目に入る。寝汗とは別の汗が胸の上の肌をつつと流れているのを凝視していると、彼女はそれを察して素早く両手で胸を抱いて隠す。その姿が余計に色っぽく感じられて、男の息子がようやく欠伸をしながらもたげ始めた。未だに大陸に来てから女性を味わっていないそれは目の前にある果実を前に我慢をする気な
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